利益が出た株をすぐ売りたくなるのはなぜ?早すぎる利確と後悔の心理
株の利益をすぐ確定したくなる理由を、プロスペクト理論と取引データから解説。早すぎる利確や売却後の後悔に振り回されないために、長期保有の前提と売る前に残す判断メモを考えます。
利益が出た株をすぐ売りたくなるのは、将来の値上がりより、いま手にできる利益が確かに見えるからかもしれません。 ただし、利確そのものが失敗とは限りません。大切なのは、売る目的と、その時点で分かっていることを整理することです。
今回は、投資初心者の本戸かなと、真鍋 学が「売った後の後悔」まで一緒に考えます。二人は解説用の架空のキャラクターです。研究の数字は図と本文で示し、出典一覧は記事末尾にまとめています。

10万円で買った株を12万円で売ったら、2万円の利益ですよね。でも、その後15万円になったら……。得したはずなのに、なんだか損した気分です。

その気持ち、今日の主役やね。ただ、手にした2万円と、後から見える「あと3万円」は別もんや。売る前の判断まで、後から出た答えで採点せんとこ。
「損小利大」と、実際の心の動きは逆になりやすい

「損小利大」って、損は小さく、利益は大きく、ですよね。なのに少し利益が出ると、私は先に売りたくなりそうです。

言葉にすると簡単やけど、実際の気持ちは反対へ向くことがあるんや。利益が見えると「いま確定できる安心」がほしくなる。損失が見えると、今度は「まだ戻るかも」と持ち続けたくなる。

同じ株なのに、買った値段を境に気持ちが変わるんですね。

せやね。買値が頭の中の基準になるんや。ただし、売る理由は心理だけやない。お金が必要なときも、会社の見通しが変わったときもあるで。
この「基準からの増減」に注目する考え方は、カーネマンとトベルスキーのプロスペクト理論(1979年)を手がかりに説明できます。研究では、利益の場面では確実な利益を好み、損失の場面では確実な損失を避けようとしてリスクを選ぶ傾向が示されました。

同じ1万円の得と損でも、損のほうを重く感じるんですか? 「2倍」と聞いたことがあります。

損を重く見やすい傾向はある。でも「誰でも必ず2倍」は違うで。2倍くらいという話の元になった研究と、後の研究を並べてみよか。
同じ1万円でも、損失をどれほど重く見る?
上段は金額の比較。下段は「利益の重み=1」とした研究上の推定値です。
1979年の原論文が示したのは、利益より損失を重く評価しやすいという考え方です。「約2倍」という固定の数字を理論の定義にしてはいません。数字は研究方法や対象によって変わるため、ここでは同額でも損失を重く見やすい傾向を押さえてください。
利益のある株を売りやすく、損失のある株を持ち続けやすい傾向は「ディスポジション効果」と呼ばれます。ただし、理論だけで一人ひとりの売買を決めつけることはできません。損失側の心理は損切りの記事で扱い、ここでは利確に絞ります。
取引データでは、利益のある株のほうが売られやすかった

気持ちの話だけではなく、実際の売買にも表れているんですか?

米国の証券会社の10,000口座を調べた研究がある。1987〜1993年の通年集計では、利益側の「実現率」が14.8%、損失側が9.8%。この指標では、利益側が約1.5倍やった。
出典はオディーンの1998年の研究です。図は論文のTable 1を基に作成しました。

「14.8%」は、売った株の14.8%が利益だったという意味ですか?

そこが大事な違いや。売却があった日に、売った株だけやなく、売らずに持ち続けた株も数えている。つまり、利益のある株と損失のある株が、それぞれどれくらい売られたかを比べた数字なんや。
利益実現率 = 利益を確定した件数 ÷(利益を確定した件数 + 含み益の件数)
損失実現率 = 損失を確定した件数 ÷(損失を確定した件数 + 含み損の件数)
14.8÷9.8は約1.51です。ただし、12月には損失実現率のほうが高くなりました。税金を意識した売却も考えられ、「いつでも利益を先に売る」とは言えません。
これは昔の米国の特定の証券会社の記録です。現在の日本の投資家に同じ割合が当てはまるわけではなく、個々の利確が早すぎたかも、この数字だけでは分かりません。
売った株が上がると、利益を得ても後悔するのはなぜか

利益を出して売ったのに、後から株価が上がると悔しい。この気持ちは、どう考えたらいいんでしょう?

レストランでカレーを頼んだ後、隣にオムライスが運ばれてきたとするやろ。カレーは何も悪いことしてへんのに、選ばなかったオムライスにだけ、脳内でスポットライトが当たるんや。

たしかに。カレーの味は変わっていないのに、「あっちにすれば」と考えます。
株でも、実際の結果と「売らなかった場合」を比べます。10万円で買った株を12万円で売り、後から株価が15万円になったとしましょう。
10万円
12万円
確定した利益 +2万円15万円
「持っていれば」さらに+3万円
実際には2万円の利益。でも頭の中では、取れなかった3万円が大きく見えるんですね。

せや。実際に3万円を失ったわけではない。「持ち続けた自分」という、起きなかった展開を思い浮かべて比べている。心理学では、これを反実仮想と呼ぶんや。
ストラヒレビッツ、オディーン、バーバーの2011年の研究では、二つの証券会社の記録から、売却後に値上がりした株は、値下がりした株より買い戻されにくい傾向が報告されました。以前に利益を出して売った株は、損失を出して売った株より買い戻されやすい傾向も見られます。

でも、取引の記録を見ただけで、その人が後悔したと分かるんですか?

ええ質問や。それは分からへん。研究者は後悔や失望が関わる可能性を論じているけど、直接調べたのは買い戻しの行動や。感情を測ったり、原因を証明したりしたわけではないんやで。
売った後の上昇だけで、過去の判断を「失敗」と決めることはできません。必要なお金を確保するための売却だったなら、その目的は果たしています。振り返るときは、後日の最高値ではなく、売った時点で分かっていたことに戻ります。
長期保有にも、保有理由の見直しが必要

早く売りすぎるのが心配なら、最初からずっと持つと決めればいいんですか?

そこも一歩立ち止まりたい。もし保有年数だけで成果が決まるなら、決算書よりカレンダーを見れば済んでまう。企業が利益を再投資して成長するには時間が要るけど、長く持つだけで利益が育つわけやないんや。

会社の競争力や借入れ、成長の見通しも変わりますよね。それに、使う時期が近づいたら、私のほうの事情も変わります。

その通りや。株価に将来の成功が織り込まれすぎている場合もある。一社への集中が大きくなったり、値下がりを受け止めにくくなったりもする。保有理由は、会社と自分の両方から見直すんやで。
インフレでも、優良企業の株価が比例して上がるわけではない

でも、物価が上がるなら企業の売上も増えて、株価も同じように上がるのでは?

売上だけやなく、利益を見る必要があるで。値上げできても、材料費や人件費がもっと増えたら利益は減る。値上げで売れる数が減ることもあるんや。
日本銀行の2026年5月の企業への聞き取り報告にも、競争や需要を考えると追加の値上げが難しいという声があります。株価には金利や将来への期待も反映されるため、物価と株価が同じ割合で上がるわけではありません。
配当も、無料で上乗せされる利益ではない

配当をもらえるなら、売らずに持っていたほうがお得ですか?

配当は空から降ってくるおまけとちゃうで。会社のお金が株主に移る分、会社に残るお金は減る。受け取った配当と、株価の変化を合わせて考えたいんや。
日本取引所グループの「配当落」の説明では、配当を受け取る権利がなくなると、理論上は株価が配当相当額だけ下がるとされています。実際の株価はほかの情報でも動くため、必ずその額だけ下がるという意味ではありません。配当は減ることも、なくなることもあります。
利確する前に確認したい四つのこと

売った後の株価は分からない。では、売る前に何を考えておけばいいですか?

未来の株価を当てるより、いまの理由を残すんや。次の四つから、今回の判断に関わることを一言で書いてみよか。
| 確認すること | 自分に向けた問い |
|---|---|
| 目的 | 何のためのお金か。今回の売却は、その目的に合っているか |
| 使う時期 | いつ使う予定か。必要な時期までに値下がりしても対応できるか |
| 保有理由 | 何を評価して買ったか。その理由は今も成り立っているか |
| 資産の偏り | 一社や特定の業種に集中していないか。値下がりを受け止められる範囲か |
例えば「来年使うお金を用意するため、必要な額だけ売る」。そう書けば、後から株価が上がっても、当時の目的を思い出せます。

もし「利益が消えるのが怖い」しか書けなかったら、我慢して売らないほうがいいんですか?

我慢だけが答えやないで。投資額が自分の受け止められる範囲を超えてへんか、生活に必要なお金まで投資してへんか、そこを確かめるきっかけにしたらええ。
この四点は判断を整理するために当ブログが作った表で、利益を増やす効果が実証された売買ルールではありません。売った後に上がっても下がっても、当時の情報と目的を振り返るためのものです。
個別株の利確に悩み続けるなら、判断の回数を減らす選択肢もある

一社ずつ調べて、毎回売り時を考えるのが負担な人もいそうです。

そういう人には、幅広い指数に連動する投資も選択肢や。多くの企業をまとめて持つ形なら、一社ごとに「いつ利確するか」を判断する場面は減らせるで。

でも、判断が全部なくなるわけではないですよね。市場全体が下がることもあります。

その通り。指数の中身や費用、お金を使う時期は見なあかん。特定テーマだけの指数なら、分散の幅も狭い。方法を変えても、リスクが消えるわけやないんや。
米国証券取引委員会の解説も、指数に含まれる資産のリスク、費用、指数への連動のずれを挙げています。幅広い株式指数でも市場全体が下がれば損失が出ます。
目標は、天井で売ることではありません。売った理由を、結果が出る前の自分にも説明できるか。そこに立ち戻れば、後から見えた株価だけで過去の判断を決めつけず、次の判断を見直す手がかりになります。
出典・参考資料
- Daniel Kahneman & Amos Tversky「Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk」Econometrica 47巻2号、263–291頁(1979年)。 利益・損失を基準からの変化として評価する考え方と、確実な利益・損失を含む選択の傾向を参照。
- Amos Tversky & Daniel Kahneman「Advances in Prospect Theory: Cumulative Representation of Uncertainty」Journal of Risk and Uncertainty 5巻、297–323頁(1992年)。 損失回避の重みの推定値の中央値2.25を参照。参加者全員や投資家全体に当てはまる定数ではありません。
- Lukasz Walasek, Timothy L. Mullett & Neil Stewart「A meta-analysis of loss aversion in risky contexts」Journal of Economic Psychology 103巻、102740(2024年)。著者所属機関が公開する全文。 複数研究の統合推定値1.31を参照。損失回避の推定値には研究間のばらつきがあり、精度にも限界があると指摘。
- Terrance Odean「Are Investors Reluctant to Realize Their Losses?」The Journal of Finance 53巻5号、1775–1798頁(1998年)。著者による全文。 米国10,000口座、1987〜1993年の分析。Table 1の通年PGR 0.148、PLR 0.098と、各指標の定義を参照。約1.51倍は当ブログが14.8÷9.8で計算。
- Michal Ann Strahilevitz, Terrance Odean & Brad M. Barber「Once Burned, Twice Shy: How Naive Learning, Counterfactuals, and Regret Affect the Repurchase of Stocks Previously Sold」Journal of Marketing Research 48巻特別号、S102–S120頁(2011年)。著者による掲載版全文。 売却時の利益・損失と、売却後の値動きに関連する買い戻し行動を分析。後悔・失望は著者らの心理的解釈であり、感情の直接測定や因果関係の証明ではない点に留意。
- 日本銀行「地域の消費関連企業の価格設定行動の変化と2026年度の価格改定方針」(2026年5月15日)。 コスト上昇と販売価格への転嫁、競争や需要の懸念を巡る企業の声を参照。本文の株価との関係は一般的な仕組みの説明で、この聞き取りによる株価予測ではありません。
- 日本取引所グループ「配当落」「配当予想の修正に関するFAQ」。 配当落の仕組み、配当予想の修正や無配を含む開示を参照。
- 米国証券取引委員会(SEC)Investor.gov「Index Funds」。 インデックスファンドの仕組み、費用とリスクを参照。
※金額の例は説明のための仮例です。「売る前の判断メモ」は当ブログによる整理で、売買成果を保証するものではありません。
本記事は利益確定と投資心理の一般的な解説であり、投資に関する個別の助言ではありません。特定の銘柄や商品を勧めるものではありません。過去の値動きは将来の成果を保証しません。投資には元本割れリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。