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シミュレーション

死んだら得、生きると損——貯蓄型保険 vs NISA、月5万円・30年で得なのはどちらか

貯蓄型保険とNISA(オルカン)に月5万円を入れ続けた場合、10年・20年・30年後にどれだけ差がつくか。死亡保険金とNISA資産が並ぶ「分岐点」と、若年層の実際の死亡率・障害率から、保険での資産形成が合理的かどうかを数字で検証する。

注記: 本記事は投資助言ではありません。行動経済学・心理学の観点からお金の判断を考えるための情報提供です。

「保険に入ると安心だし、貯蓄にもなる」——そう言われたことはないだろうか。

保険営業員から「掛け捨ては損。どうせ払うなら戻ってくる保険の方がいい」と勧められた経験を持つ人は多い。一見すると合理的に聞こえるこの論理。しかし数字で検証すると、まったく別の景色が見えてくる。

今回は貯蓄型保険とNISA(オルカン)に月5万円を入れ続けた場合、何が起きるかを具体的に計算する。


比較の前提条件

項目NISA(オルカン)保険
月額5万円5万円
年額60万円60万円
対象商品全世界株式インデックスファンド架空の養老保険(30歳男性・20年払い)
期待リターン3% / 5% / 7%(複利)市場に連動しない固定

保険の数値は**「ハッピーリターン生命(架空の保険会社)」の養老保険20年払いプラン**として設定する。実在の商品ではないが、各社の一般的な養老保険・終身保険の条件を参考にした概算値だ。


NISAで積み立てたら——10年・20年・30年のシミュレーション

月5万円を複利で積み立て続けた場合の資産額を計算した(毎月末積立・月次複利)。

積立資産シミュレーション(元本と資産総額)

期間元本(投入額)年利7%年利5%年利3%
10年600万円866万円777万円699万円
20年1,200万円2,606万円2,056万円1,641万円
30年1,800万円6,100万円4,163万円2,913万円

30年後、年利7%なら元本1,800万円が6,100万円になる。5%でも4,163万円だ。元本の2〜3倍以上になる計算である。

※オルカン(全世界株式)の過去実績は年率6〜7%程度(円建て)。将来を保証するものではないが、参考値として使用している。


グラフで見る:NISA vs 保険の資産推移(30年間)

グラフを見ると、NISAの積立資産(青・緑・黄)が赤の破線(死亡保険金1,500万円)を追い越す時点が、保険からNISAへの「逆転ポイント」だ。


保険に入ったら——「ハッピーリターン生命」養老保険の場合

架空の「ハッピーリターン生命」養老保険(30歳男性加入・月5万円・20年払い)の条件を以下のように設定する。

項目金額
月額保険料5万円
総払込保険料(20年)1,200万円
死亡保険金(払込期間中・高度障害含む)1,500万円
満期受取金(20年後)1,100万円
20年後の解約返戻率約91.7%

ここで気づく点がある。元本1,200万円を20年間払って受け取れる満期金が1,100万円——つまり20年後でも元本割れしている。

対してNISAは、年利5%なら20年後に2,056万円だ。保険の満期金との差は約956万円


保険を「投資」として見た場合の実質利回り

「満期になればお金が戻ってくる」という点だけ見れば、保険を一種の投資商品として捉えることもできる。では、投資として見た場合の利回りはどれくらいか。

計算条件は以下の通りだ。

  • 毎年60万円を20年間払い込む(計1,200万円)
  • 20年後に1,100万円を受け取る

この「毎年支払い、満期に受け取る」キャッシュフローから**IRR(内部収益率)**を計算すると、

この保険の実質利回り(IRR)

年利 −0.9%

20年間かけて資産を目減りさせる計算になる

マイナスの利回りとは、簡単に言えば「お金を預けるほど減っていく」ということだ。

銀行の普通預金(年0.001〜0.02%程度)と比べてもマイナスであり、インフレを考慮すればさらに実質的な購買力は低下する。「元本割れはしていない」という言葉は、物価上昇を無視した場合にのみ成立する主張だ。


重要な論点:何年目まで保険が「有利」か

保険が合理的に見える唯一の局面がある。加入初期に死亡・高度障害が発生した場合だ。

1年目で死亡した場合、60万円の保険料で1,500万円が遺族に渡る。これはNISAでは絶対に実現できない。保険の「有利な時間」は確かに存在する。

では、その有利な時間はいつまでか。

NISAの資産が死亡保険金(1,500万円)に追いつくのは何年目か

同じ月5万円をNISAで積み立て続けた場合、累積資産が1,500万円に達する時期を計算した。

利回り分岐点(NISAが1,500万円に達する時期)
年利7%14年6ヶ月
年利5%16年2ヶ月
年利3%18年9ヶ月

加入から14〜19年以内に死亡または高度障害が発生した場合に限り、保険の方がNISAより多く受け取れる

逆に言えば、それを超えて生きていればいるほど、保険は「損な選択」になっていく。


若い人が死亡・高度障害を負う確率はどれくらいか

ここが最も重要な論点だ。

保険が有利な期間内に、実際に死亡・高度障害が発生する確率はどれほどか。政府が公表しているデータで確認する。

年齢別の死亡率(男性)

出典:厚生労働省「第23回完全生命表」(2020年)

年齢1年間の死亡率(男性)
30歳約0.052%
35歳約0.073%
40歳約0.119%
45歳約0.192%
50歳約0.340%

30歳男性が1年間に死亡する確率は0.052%。1,000人いれば、1年で亡くなるのは約0.5人だ。

加入から16年以内に死亡する確率(30歳加入の場合)

30歳で加入し、46歳になるまでに死亡する確率を各年齢の死亡率から積み上げると、概算で**約1.3%**となる。

つまり、**「保険が有利な時間内に保険金を受け取れる確率は、約1.3%」**ということになる。

残りの約98.7%の人は、NISAで積み立てていた方が最終的に多くの資産を得られる

高度障害の発生率

高度障害(両眼失明・四肢の機能喪失・重篤な精神障害など、保険金支払い対象となる水準)の発生率は、死亡率よりさらに低い。

出典:厚生労働省「令和5年版 障害者白書」によると、20〜40代における保険の高度障害定義に該当するほど重篤な障害の新規発生率は、年間0.02〜0.05%程度と推定される。


保険に入れば入るほど損をしていく理由

数字で整理する。

30歳で月5万円の貯蓄型保険に加入したとして、

  • 保険が有利になる確率(16年以内に死亡・高度障害):約1〜2%
  • NISAが有利になる確率(16年を超えて生存):約98〜99%

にもかかわらず、保険に加入した場合の機会損失:

加入10年目:NISA(年利5%) 777万円 vs 保険解約返戻金 約430万円 → 差額 約347万円
加入20年目:NISA(年利5%) 2,056万円 vs 保険満期金 1,100万円 → 差額 約956万円
加入30年目:NISA(年利5%) 4,163万円 vs 保険(継続後)約1,500万円 → 差額 約2,663万円

年数が長くなるほど、差は雪だるま式に拡大する。これが「保険に入れば入るほど損をしていく」メカニズムだ。


保険が本当に必要な場面とは

ここで注意してほしいのは、保険そのものを否定しているわけではない、という点だ。

「万が一、早期に死亡・重篤な障害を負った場合に遺族や本人の生活を守る」という目的のために保険を使うことには合理性がある。

ただし、その場合に適しているのは掛け捨て定期保険だ。

比較項目貯蓄型保険掛け捨て定期保険
保障内容死亡・高度障害死亡・高度障害(同等)
月額保険料(30歳男性・保障1,500万円)約5万円約2,000〜4,000円
満期金あり(元本割れ)なし
差額でNISA積立できない毎月約4〜5万円を別途積立可能

掛け捨て定期保険で保障を確保しつつ、差額をNISAに回すのが、データに基づいた合理的な戦略といえる。


よくある疑問

Q1. 養老保険には「保険料控除」があるのでは?

確かに、養老保険などの生命保険料を支払うと、生命保険料控除が受けられる。しかし、多くの人が「控除=全額戻ってくる」と誤解している。実際の仕組みはこうだ。

生命保険料控除の上限(所得税)

控除の種類年間払込額控除額の上限
一般生命保険料控除いくら払っても最大 4万円
介護医療保険料控除同上最大 4万円
個人年金保険料控除同上最大 4万円
合計(所得税)最大 12万円

※住民税はさらに上限が低く、3種合計で最大 7万円

月5万円(年60万円)払っても、控除されるのは最大4万円。しかも「控除」であって「節税額」ではない。所得税率20%の場合、実際の節税額は:

4万円(控除額) × 20%(税率) = 8,000円 / 年

つまり年間60万円払って節税できるのは8,000円。払込額の1.3%に過ぎない。

iDeCo(オルカン)の方が圧倒的に有利

節税目的なら、iDeCo(個人型確定拠出年金)でオルカンなどのインデックスファンドを積み立てるほうが、あらゆる面で有利だ。

iDeCoは掛金の全額が所得控除になる。さらに運用益も非課税、受取時も控除の対象になるという三段階の節税効果がある。

貯蓄型保険(年60万円)iDeCo(月2.3万円・会社員上限)
掛金の控除額最大4万円全額 約27.6万円
年間節税額(税率30%)約12,000円約82,800円
運用益の扱い保険会社が運用・成果は限定的非課税で自分が運用

節税効果は6〜7倍以上の差がある。

ただし、iDeCoでは「銘柄選び」が極めて重要だ

iDeCoは制度の優秀さとは裏腹に、加入する金融機関・選ぶファンドによって結果が大きく変わる。

気をつけたいのが、手数料の高いアクティブファンドや元本確保型(定期預金)を選んでしまうケースだ。iDeCoを始めたのに、実態は「節税できる低利回り定期預金」になってしまう人は少なくない。

iDeCoの節税メリットを最大限活かすには、信託報酬(年間手数料)が低いインデックスファンドを選ぶことが基本だ。

iDeCoで選ぶべき銘柄の条件
① 全世界株式(オルカン)または米国株式(S&P500)のインデックスファンド
② 信託報酬が年0.1〜0.2%以下のもの
③ 元本確保型(定期預金)は選ばない

代表例:eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)信託報酬 約0.057%

「保険料控除があるから得」という理由で貯蓄型保険を選ぶのは、数字の上では合理的ではない。


Q2. でも投資は元本保証がない。それは安心ではないのでは?

全くその通りだ。

この記事でNISAの利回りとして使った3〜7%は、あくまでも過去から現在までの統計に基づく参考値に過ぎない。世界経済が今後も成長し続ける保証はどこにもない。

地政学的リスク、金融危機、構造的な停滞——こうした事態が重なれば、積立資産が長期にわたって低迷することも十分に考えられる。その意味で、投資には「不確実性」が常につきまとう。

ただし、保険の「確実性」にも別のリスクがある。

  • インフレが進むと、「確実に戻ってくる1,100万円」の実質価値は目減りする
  • 年利−0.9%という実質利回りは、インフレ前の話だ
  • 2%のインフレが続けば、20年後の1,100万円の実質購買力は現在の約740万円相当になる

「元本保証」と「実質価値の保全」は別の話だ。名目の金額が減らなくても、物価が上がれば同じだけ損をしている。

どう考えるべきか

不確実性を嫌うなら、その気持ちは合理的だ。しかし問題は、「保険に入れば安心」という選択肢もまた別の種類のリスク(機会損失・インフレリスク・実質マイナス利回り)を抱えているという点だ。

「リスクのある選択」と「リスクのない選択」を比べているのではなく、異なる種類のリスクをどちらが引き受けるかを選んでいるのだと理解した上で判断することが、正確な思考への第一歩だと私は考える。


まとめ:結論を3行で

  1. 保険が有利なのは「加入後14〜19年以内に死亡・高度障害が発生した場合」だけ。その確率は約1〜2%。
  2. 98%以上の確率で、NISAで積み立てていた方が最終的な資産は多くなる
  3. 保険で資産形成するほど、毎年の機会損失は膨らんでいく

「どうせ払うなら戻ってくる保険の方がいい」という言葉は、確率と複利の力を無視した言葉だ。感情的には説得力があるが、数字には勝てない。

保険の本来の役割は「起きると困るが確率は低いリスクのヘッジ」だ。資産形成の手段ではない。この2つを混同させることで利益を得る構造が、保険業界には存在する。

数字で考えれば、答えはシンプルだ。


免責事項:本記事は特定の商品・サービスの購入・解約を推奨するものではありません。保険の必要性は個人の家族状況・健康状態・ライフプランによって異なります。本記事のシミュレーションはあくまで概算であり、実際の商品条件・税制との差異があります。投資・保険の判断は自己責任でお願いします。

出典:厚生労働省「第23回完全生命表」(2020年)/ 厚生労働省「令和5年版 障害者白書」