「二番底」を待つのは正しいのか――コロナ後に11か月動けなかった私が失ったもの
暴落のあと「二番底が来る」と言われます。では実際に待った人はどうなったのか。コロナショック後、二番底を信じて11か月動けなかった運営者の実体験を、日経平均・S&P500のデータと合わせて検証します。二番底の意味、過去に来たケースと来なかったケース、そして待ち続けてしまう6つの理由まで解説します。
暴落が起きると、必ずこう言われます。
「まだ底ではない。二番底が来る」
この言葉を信じて、私は11か月、何もできませんでした。
コロナショックのあとの話です。現金を握りしめたまま、二番底が来るのを待ち続けました。待っているあいだに、相場はどんどん上がっていきました。
この記事では、実際に待った人間として、そのとき何が起きていたのかをデータと合わせて書きます。「二番底を待つ」という判断が、どれだけのものを失わせるのか。そして、なぜ人はそれをやめられないのか。
そもそも「二番底」とは
株価が大きく下げて一度反発したあと、もう一度下げて安値を付ける動きのことです。チャートの形から「ダブルボトム」とも呼ばれます。
「暴落は一度では終わらない」「本当の底はもっと下」——暴落のたびに、この言葉が飛び交います。
そして厄介なことに、この言葉はときどき当たります。
コロナショックでは、二番底は来なかった
まず事実を確認します。
2020年3月19日 底値 16,552円(3年4か月ぶりの安値)
2020年4月30日 20,193円 2万円台を回復
2020年5月11日 20,207円 底からわずか32営業日で、下げ幅の半分を回復
米国株も同じでした。S&P500は2020年3月23日に2,237まで下げ、そこから2020年8月にはコロナ前の高値を完全に回復しています。
そして——二番底は、来ませんでした。
2022年には大きな下落局面がありました。しかし2020年3月の安値を下回ることは、6年半経ったいまも一度もありません。
待っているあいだに、何が起きていたか
ここからが本題です。私が現金のまま待っていた期間に、相場はどうなっていたのか。
| 時点 | 日経平均 | 底からの上昇 |
|---|---|---|
| 2020年3月19日(底) | 16,552円 | — |
| 2021年2月末 私がようやく始めた時点 |
28,966円 | +75% |
| 2026年8月 | 66,405円 | +301% |
私が待っていた約11か月で、日経平均は75%上がりました。
100万円を投じていれば175万円になっていた期間を、私は現金で過ごしました。
図で見る「来なかった二番底」と「来た二番底」
言葉だけだと伝わりにくいので、実際の株価の動きを並べます。
リーマンでは、たしかに二番底が来ていた
2008年12月30日 8,859円 一番底から +23.7% 戻した。2か月かけての反発
2009年 3月10日 7,054円 二番底。バブル崩壊後の最安値
2か月かけて23.7%も戻してから、そこからまた下げて、一番底を割った。 私が「二番底が来る」と信じた根拠は、これです。間違った知識ではありません。実際に起きたことです。
ただし、待った見返りは1.5%だった
ここが重要です。二番底の7,054円は、一番底の7,162円をわずか1.5%下回っただけでした。
しかも途中で23.7%も戻しているので、待っているあいだ「もう来ない」と何度も思わされます。 そこを耐えて、正確に3月10日前後で買えた人だけが、この1.5%を手にできました。
二番底は来ました。それでも、待つ側の期待値は割に合っていません。
そしてコロナでは、11か月待った代償が −75%分の機会損失 でした。当たったときの見返りが1.5%、外れたときの代償が75%。この賭けは、勝っても大きく報われません。
追記:2008年1月に「底だ」と判断していたら
日足のグラフでは分かりにくいので、月足でも見てみます。点ひとつが1か月(月末の終値)です。
下げが3段階に分かれているのが見えると思います。2008年1月にいったん急落し、そこから半年ほど横ばい。そして秋に一気に崩れ、さらに翌春にもう一段下げました。
「もう底では」と思える場面が、3回あったわけです。最初の1回目が2008年1月でした。
2008年1月22日、日経平均は2年4か月ぶりに13,000円を割り込みました。 世界同時株安のさなかで、当時の報道は連日この話題でした。
そして重要なのは、この時点の下落率です。
2008年1月22日 12,573円 高値から −31.2%
−31.2%。 ここで「さすがに売られすぎだ」と考えて買った人が、どうなったか。
2008年1月22日 12,573円 → 2009年3月10日 7,054円
100万円が 56万円 になった計算です。
「もう十分下げた」と思ったところから、資産が半分近くになるまで下げ続けた。 これが「早すぎる判断」の代償です。
そして、この−31.2%が意味すること
ここに、この記事でいちばん厄介な事実があります。
| 高値からの下落率 | その後 | |
|---|---|---|
| 2008年1月22日 リーマンの1年半前 |
−31.2% | さらに−43.9%下げた |
| 2020年3月19日 コロナショックの底 |
−31.3% | ここが底だった |
ほぼ同じ下落率です。 それでも片方は「まだ半分も来ていない途中」で、もう片方は「本当の底」でした。
私は当時、「リーマンは−62%まで落ちた。コロナはまだ−31%。だからまだ下がる」と考えていました。この表を見ると、その考え方が何を見落としていたかが分かります。
下落率は、底かどうかを教えてくれません。 同じ−31%が、あるときは通過点で、あるときは終着点でした。
底の日は、どちらも当日には分からなかった
| コロナ(2020/3/19) | リーマン(2009/3/10) | |
|---|---|---|
| 底の日の下落率 | −1.04% | −0.44% |
| 当日の見え方 | どちらも「何も起きていない、静かな下げの日」だった | |
大底は、劇的な暴落の日には来ませんでした。 コロナもリーマンも、1%にも満たない下げの日が最安値です。
「これ以上ないほど売られた日」を待っていた私は、そもそも存在しないものを探していたことになります。
なぜ、待ち続けてしまったのか
ここが、この記事でいちばん書きたいところです。
理由は情報不足ではありませんでした。 当時の私には、待つべき理由が6つありました。ひとつずつ書きます。
① 自分が間違っているかもしれない、という恐怖
いちばん大きかったのはこれです。
買って下がったら、「あのとき待っていればよかった」と後悔する。買わずにいるあいだは、まだ間違いが確定しません。
行動経済学では 後悔回避 と呼ばれます。人は損そのものより、「別の選択をしていれば避けられた」と思うことを強く嫌います。
そして厄介なのは、動かないことも選択だという点です。待つという判断も外れうるのに、そちらの後悔は想像しにくい。動いて失敗する痛みばかりが、先に見えていました。
② リーマンでは、さらに下があった
これは知識として持っていました。だからこそ効きました。
リーマンショックのとき、株価は一度下げ止まったあと、さらに深いところまで落ちています。「あのときもそうだった。今回も同じはずだ」——そう考えるのは自然でした。
しかしこれは 利用可能性ヒューリスティック です。強く記憶に残っている事例が、判断のすべてを支配してしまう現象です。
私が知っていた暴落のサンプルは、実質リーマン1つだけでした。サンプル1つを「型」だと思い込んでいたわけです。
👉 投資家が知っておくべき心理学10選――行動経済学でわかる「損をする理由」
③ 下落率が、リーマンに比べて浅すぎた
これは数字で説明できます。
| 暴落 | 高値 | 安値 | 下落率 |
|---|---|---|---|
| リーマンショック 2007年7月→2008年10月 |
18,261円 | 6,994円 | −62% |
| コロナショック 2020年1月→2020年3月 |
24,083円 | 16,552円 | −31% |
リーマンは6割落ちました。コロナは3割です。「まだ半分しか下げていない。下げ余地はまだある」——当時の私には、そう見えていました。
これは アンカリング です。リーマンの−62%という数字が基準になり、−31%が「途中」に見えてしまった。
しかし、暴落の深さに決まった型はありません。 ブラックマンデーは一日で終わり、リーマンは1年半かかりました。−62%が正しい深さだという根拠は、どこにもなかったのです。
④ 株価を見始めてから、初めての「買い場」だった
私が相場を見るようになったのは2016年です。それから4年、大きな暴落は一度も来ませんでした。
だからコロナショックは、待ちに待った一度きりのチャンスに見えました。
そしてここが落とし穴でした。「一生に一度」だと思うほど、完璧にやりたくなるのです。少しでも安く買いたい。底で買いたい。二番目に良いタイミングでは満足できない。
心理学では 最大化思考 と呼ばれます。最良の選択を求めるあまり、決められなくなる傾向です。
「まあまあの価格で買う」という選択肢を、私は自分で消していました。
⑤ ずっと貯めてきた資金が、一気になくなる
これも大きかった。
投じようとしていたのは、何年もかけて貯めたお金でした。それが一日で「株」に変わってしまう。
金額としては同じです。しかし感覚はまったく違いました。貯金は「減らないもの」、株は「減るかもしれないもの」。心の中では、まったく別の財布に入っていました。
これは メンタル・アカウンティング と 損失回避 が重なったものです。人は同じ額でも、得る喜びより失う痛みを約2倍強く感じます。貯めた期間が長いほど、その痛みは重くなります。
👉 なぜ損切りができないのか――損を2倍痛く感じる脳の仕組みと、4つの対処法
⑥ 回復が、あまりにも早すぎた
最後がこれです。
日経平均は、底から32営業日で下げ幅の半分を戻しました。リーマンのときは、元の水準に戻るまで何年もかかっています。
「こんな速さで戻るはずがない。これは本物の回復ではない」
そう思いました。速すぎる回復は、むしろ不自然に見えたのです。
しかし、あとから振り返れば理由がありました。各国が前例のない規模の金融緩和と経済対策を打っています。リーマンのときとは、政策の速さがまったく違いました。
私は「過去と同じ形」を探して、「今回は何が違うか」を見ていませんでした。
6つに共通していたこと
並べてみると、はっきりすることがあります。
どれも、それなりに筋が通っています。 私は思いつきで待っていたわけではありません。リーマンの実例があり、下落率の比較があり、回復の速さへの疑問があった。
問題は、6つとも「待つ理由」だったことです。
私は「買わない理由」だけを集めていました。買う理由を同じ熱心さで探したことは、一度もありませんでした。これが 確証バイアス です。
そして相場について何か言っている人は、常にいます。上がっていても「これは反発にすぎない」という論調は必ず存在する。探せば必ず見つかるからこそ、私の確信は最後まで揺らぎませんでした。
私は以前、トランプ・ラリーのときにも同じことをしています。報道を信じて動かず、上がっていくのを外から見ていました。一度学んだはずのことを、もう一度繰り返したわけです。
つまり、どういうことか
「二番底は来る」も「来ない」も、どちらも間違いです。
正しくは、「来ることもあるし、来ないこともある。そして、どちらかは事前には分からない」。
これは当ブログで検証してきた他の相場格言と、まったく同じ結論です。
👉 暴落のサインとは――「これが出たら危ない」と言われる7つを検証した結果
問題は「二番底という現象があるかどうか」ではありません。それを事前に当てられるかどうかです。そして当てられないなら、それを前提に行動を組み立てる必要があります。
出遅れた人に、いちばん伝えたいこと
私は2021年2月27日に、ようやくインデックス投資を始めました。最悪のタイミングだと思っていました。 底から75%も上がったあとです。
しかし、その後どうなったか。
遅れて始めたあとに得たのは +129%
(日経平均、2021年2月末28,966円 → 2026年8月66,405円)
待った期間に逃した分より、遅れてでも始めたあとに得た分のほうが大きかった。
これは結果論です。将来も同じになる保証はありません。それでもひとつ言えることがあります。
「もう高いから、次の暴落を待とう」という判断は、私が11か月やり続けて、外し続けたものです。
いま出遅れたと感じている方に伝えたいのは、過去の安値を基準にすると、永久に買えないということです。あの16,552円は、もう戻ってきません。基準にすべきは過去の底ではなく、自分がいつまで市場にいるつもりかのほうです。
👉 一括投資のほうが儲かるのに、なぜ積立が正解なのか――ドルコスト平均法の心理学
待っている自分に気づくための3つの質問
私が当時、自分に問えていたらよかったと思う質問です。
3つ目が、当時の私にいちばん足りていませんでした。待つか、全部買うかの二択で考えていたのです。少しずつ始めるという選択肢が、頭にありませんでした。
まとめ
- 二番底とは、暴落後に一度反発してから、もう一度安値を付ける動きのこと
- コロナショックでは二番底は来なかった。32営業日で半値戻しし、以降6年半、当時の安値を割っていない
- リーマンショックでは来た。つまり「来ることもあるし、来ないこともある」
- 私は11か月待ち、その間の+75%を逃した
- 待ち続けた理由は情報不足ではなく、後悔への恐怖/リーマンという唯一のサンプル/下落率のアンカリング/一度きりだという思い込み/貯めた資金への執着/回復の速さへの疑いの6つ
- 6つとも筋は通っていた。問題は、6つとも「待つ理由」だったこと
- それでも遅れて始めたあとの+129%のほうが大きかった
- 過去の安値を基準にすると、永久に買えなくなる
暴落が来たとき、「二番底が来る」という声は必ず聞こえてきます。その声が間違っているとは言いません。当たることもあります。
ただ、当たるかどうかを事前に知る方法はありません。 そして知らないまま待ち続けることの代償は、私が身をもって払いました。
出典・参考資料
日経平均株価
- 2020年3月19日 終値 16,552円83銭(2016年11月以来の安値)/2020年4月30日 20,193円69銭/2020年5月11日 20,207円(底から32営業日で半値戻し)
- 2021年2月26日(2月の最終営業日)終値 28,966円 ※2月15日には30,084円と30年半ぶりに3万円台を回復
- 2026年8月 66,405円
S&P500
- 2020年2月19日 3,386ポイント → 2020年3月23日 2,237ポイント(下落率 約33.9%)
- 2020年8月にコロナ前の高値を回復
リーマンショック
- 日経平均 2007年7月9日 18,261円98銭(当時の高値)
- 2008年1月22日 12,573円05銭(1月の安値。2年4か月ぶりの13,000円割れ)。高値から約31%
- 2008年10月27日 7,162円90銭(一番底、終値ベース)。ザラ場の安値は10月28日の6,994円90銭
- 2008年12月30日 8,859円56銭(一番底から+23.7%の戻り高値)
- 2009年3月10日 7,054円98銭(二番底=終値ベースのバブル崩壊後最安値)
- 2008年秋の下落後、2009年3月にダウ平均が約6,594ポイントで底を付けた
コロナショックの下落率
- 日経平均 2020年1月17日 24,083円51銭(高値)→ 2020年3月19日 16,552円83銭。下落率 約31%
日次騰落率のグラフ(本文中)
- 日経平均の日足終値(Yahoo!ファイナンス 時系列)から、当ブログが前日比の騰落率を算出したもの
- コロナショック:2020年2月17日〜5月11日の55営業日/リーマンショック:2008年1月4日〜2009年3月31日の304営業日
- リーマンの安値7,162円90銭(2008年10月27日)は終値ベース。ザラ場の安値は10月28日の6,994円90銭
行動経済学の概念
- アンカリング/サンクコスト/確証バイアスは、行動経済学における一般的な概念として記述しています
※株価は各時点の終値または報道された数値にもとづく概数です。上昇率は本記事で算出したものです。
本記事は運営者個人の経験と、行動経済学の一般的な解説であり、投資に関する個別の助言ではありません。特定の時期の売買や、特定の商品を推奨するものではありません。過去の値動きは将来の成果を保証しません。投資には元本割れリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。
相場格言・アノマリー検証シリーズ
当ブログでは、語り継がれてきた相場の格言や指標を、ひとつずつデータで検証しています。「言われているが、本当にそうなのか」を確かめた記事です。
👉 「靴磨きの少年の法則」とは――株の格言の意味と由来、そして現代のサイン 相場の天井を告げるとされる、最も有名な逸話
👉 逆イールドは「景気後退の予言」なのか――最も有名な経済指標の実力をデータで検証 プロが最も重視するサイン。的中率は本当に高いのか
👉 「頭と尻尾はくれてやれ」は本当にできるか——5つのバブル相場から学ぶ天井と底の正体 過去のバブルは、どんな形で終わったのか
👉 「セル・イン・メイ」は本当に正しいのか — アノマリーの真実を検証する 5月に売るべきか。月別リターンで検証
👉 ブラッディ・マンデーは本当か——曜日別リターンのデータで「月曜暴落」を検証する 「月曜は下がる」という言い伝えの真偽
👉 なぜ移動平均線は世界で最も使われる指標なのか——「みんなが見ている」では勝てない理由 最も普及した指標が、なぜ効かなくなるのか
👉 「ダウの負け犬」とは――高配当株で儲かる仕組みと、知らないと損する落とし穴 高配当株の古典的な手法。いまも通用するのか
👉 「灰色のサイ」は誰の目にも見えているのに——見過ごされる巨大リスクの正体 見えているのに対処されないリスクの話
👉 「株式の死」はまた訪れるのか――NISAブームの今こそ知りたい、株が16年眠った時代 株が16年眠った時代。いま起きたらどうなるか
👉 「落ちてくるナイフをつかむな」は正しいのか――株の格言の意味と、拾ってよい時・危ない時 早すぎる失敗。この格言が答えていないこと
👉 「10月は暴落の月」は本当か――ブラックマンデーもリーマンも10月。41年分のデータで検証した結論 歴史的暴落が集中する月。データで見ると結論は逆