マネーマインドラボ マネーマインドラボ Money Mind Lab
基礎知識

「10月は暴落の月」は本当か――ブラックマンデーもリーマンも10月。41年分のデータで検証した結論

世界恐慌、ブラックマンデー、リーマンショック。歴史的な暴落はなぜか10月に集中しています。では10月は本当に危険な月なのか。日経平均とS&P500の41年分の月別データで検証したところ、10月は平均するとむしろ良い月でした。ではなぜ怖いのか。日本の「夏枯れ相場」はデータに出ているのか、統計的に本当に弱い月はどこかまで解説します。

注記: 本記事は投資助言ではありません。行動経済学・心理学の観点からお金の判断を考えるための情報提供です。

10月が近づくと、決まって出てくる話があります。

「10月は暴落の月だ」

根拠として挙げられるのは、たいてい同じ3つです。

  • 1929年10月 世界恐慌の引き金となった「暗黒の木曜日」
  • 1987年10月 ブラックマンデー
  • 2008年10月 リーマンショックの暴落

たしかに、並べると不気味です。歴史に残る暴落が、なぜか10月に集中しています。

では、10月は本当に危険な月なのか。日経平均とS&P500の41年分を月ごとに集計して確かめました。

結果は、私の予想とは逆でした。

本戸かな

暴落の見出しを何度も見ます。10月が来る前に身構えたくなりますね。

真鍋 学

記憶に残る出来事と、毎年の平均は別やで。まず数字を並べてから考えよか。


まず結論

① 10月の平均リターンはプラス。「下がりやすい月」ではない
② ただし値動きの荒さは12か月で最大。「荒れやすい月」ではある
③ 統計的にいちばん弱いのは9月。日米そろって最下位

順に見ていきます。


① 10月の平均リターンは、むしろ良い

1985年から2026年8月までの約41年分を、月ごとに平均したものです。

月別の平均騰落率――10月はむしろ「良い月」
1985年〜2026年8月/各月の平均(%)
-10+1+2夏枯れ123456789101112日経平均S&P50010月は平均プラス

10月は日経平均が +0.25%、S&P500が +0.99%。 どちらもプラスです。

S&P500に至っては12か月中で上から5番目、上昇した年の割合も 63.4% あります。「下がりやすい月」というデータは、どこにも出てきません。

本戸かな

平均はプラス。でも、大きく下げた年があったのも事実ですよね。

真鍋 学

その通り。平均だけでは値動きの荒さが見えへん。次は「どちらに、どれだけ振れたか」を見るで。

日経平均 S&P500
10月の平均騰落率 +0.25% +0.99%
10月が上昇した年の割合 51.2% 63.4%

日本では、「夏枯れ相場」は本当だった

もうひとつ、グラフを見ていて気づいたことがあります。

日経平均で平均がマイナスなのは、7月・8月・9月の3つだけです。 しかも連続しています。

日経平均 上昇した年の割合 S&P500
7月 −0.13% 47.6% +1.41%
8月 −0.56% 47.6% −0.19%
9月 −0.81% 41.5% −0.90%
7〜9月の合計 −1.50% — +0.32%

「夏枯れ相場」という言葉があります。お盆休みや海外投資家の夏季休暇で売買が細り、相場に力が出ない、という言い伝えです。

日本については、データがこれを支持しています。

  • 平均がマイナスの月は 7月・8月・9月の3か月だけ。それが連続している
  • 上がった年の割合も、3か月とも5割前後かそれ以下
  • 3か月を合計すると 平均−1.50%

そして重要なのが、 米国では同じ形になっていない ことです。S&P500の7月は +1.41% で、むしろ良い月に入ります。マイナスは8月と9月の2つだけで、合計すると +0.32% とプラスでした。

「夏枯れ」は世界共通の現象ではなく、日本市場に強く出る特徴だと言えます。

本戸かな

日本の7〜9月の数字を、そのまま米国株にも当てはめたら違ってしまうんですね。

真鍋 学

せやな。同じ「夏」という言葉でも、市場ごとにデータを分けて見なあかん。

ただし、これも「だから夏に売ればいい」という話にはなりません。3か月かけて平均1.5%の差です。 売買のたびの手数料と、利益にかかる約20%の税金を考えると、狙って取りにいく大きさではありません。 この点はあとでもう一度触れます。

そしてもうひとつ。 「10月は暴落の月」という言い伝えは、この夏枯れの直後に来ます。 3か月下げ続けたあとに迎える月なので、夏のあいだの重い印象が、そのまま10月に引き継がれている可能性もあります。


ここまでなら、「10月は暴落の月」はただの迷信という話で終わります。

しかし、そう単純ではありませんでした。


② 10月は「下がる月」ではなく「荒れる月」

平均が同じでも、中身はまったく違うことがあります。毎月コツコツ1%ずつ上がる月と、ある年は20%上げてある年は20%下げる月では、平均は同じでも別物です。

そこで、月ごとの振れ幅を測りました。標準偏差といって、 大きいほど「年によってバラバラ」 という意味です。

月別の「振れ幅」――10月が12か月で最大
1985年〜2026年8月/各月の騰落率の標準偏差(%)。大きいほど荒れる
02468123456789101112日経平均S&P500どちらも10月が最大

10月が、日米そろって12か月中で最大でした。

  • 日経平均 7.15%(2位は11月の6.37%)
  • S&P500 5.97%(2位は9月の4.66%)

とくにS&P500は、2位を大きく引き離しています。

つまり10月は、下に傾いている月ではなく、上にも下にも大きく振れる月です。

本戸かな

平均だけ見ると穏やかでも、実際には上げ下げが大きい。体感と数字が食い違う理由が見えてきました。

真鍋 学

せや。同じ平均気温20度でも、毎日20度なのと、0度と40度を繰り返すのでは服装が変わるやろ。平均と振れ幅はセットで見よう。

実際、日経平均の10月を41年分並べると、こうなります。

10月だけを41年分並べると
日経平均・各年10月の騰落率(%)/1985年〜2025年
-20-100+10+20198519952005201520252008年 −23.8%(リーマン)1990年 +20.1%2025年 +16.6%1987年 −10.3%(ブラックマンデー)

大きな赤と、大きな緑が、両方あります。

  • 2008年10月 −23.8% この41年で最悪の1か月
  • 1990年10月 +20.1% 湾岸危機の底からの急反発
  • 2025年10月 +16.6%

「10月は暴落の月」と言う人は、赤い棒だけを数えています。 同じ月に、これだけの緑があることは語られません。

S&P500では、もっとはっきり出ます

過去41年でワースト1位と2位の月は、どちらも10月でした。

1位 1987年10月 −21.8% ブラックマンデー
2位 2008年10月 −16.9% リーマンショック

「10月は暴落の月」という言い伝えは、この2つだけで作られていると言ってもいいくらいです。

そして同じS&P500で、2011年10月は+10.8%、2002年10月は+8.6%、2022年10月は+8.0%。いずれも大きく上げています。


③ 本当に弱いのは、9月だった

ここがいちばん意外でした。

平均リターンが12か月中で最下位だったのは、日米ともに9月です。

平均騰落率 上昇した年の割合 12か月中
日経平均・9月 −0.81% 41.5% 最下位
S&P500・9月 −0.90% 46.3% 最下位

日経平均の9月は、上がった年が41.5%しかありません。 6割近い年でマイナスです。

それでも、「9月は暴落の月だ」とは誰も言いません。

理由ははっきりしています。9月には、名前の付いた大暴落がないからです。 じわじわ下がるだけで、歴史に残る事件になっていない。

私たちが恐れているのは、「悪い月」よりも「思い出せる月」でした。

本戸かな

9月の平均のほうが低いのに、怖い月として思い浮かぶのは10月。不思議ですね。

真鍋 学

大事件には名前も映像も残る。地味な下げは記憶に残りにくい。その差を次でほどいてみよう。


なぜ、記憶は10月に偏るのか

ここからが心理の話です。

利用可能性ヒューリスティック

人は確率を計算するとき、思い出しやすい事例の数で判断します。行動経済学でいう利用可能性ヒューリスティックです。

「10月」と聞いて、私たちは1929年・1987年・2008年を思い出します。逆に「1990年10月の+20.1%」を思い出す人は、ほとんどいません。

思い出せる事例が偏っているので、確率の見積もりも偏ります。

本戸かな

「ブラックマンデー」はすぐ言えるのに、「1990年10月の大幅上昇」には呼び名がありませんね。

真鍋 学

ニュースの見出しとしては前者が強い。でも、見出しの覚えやすさは、翌年の下落確率とは別の話やで。

極端な出来事ほど、名前が付く

ブラックマンデー、暗黒の木曜日、リーマンショック。名前が付いた出来事は、記憶に残り、語り継がれます。

一方、9月のじわじわした下げには名前がありません。同じだけ資産を減らしても、記憶には残らない。

そして名前が付くほどの出来事は、当然ながら極端な出来事です。極端な出来事は、振れ幅の大きい月に起きやすい。 10月に暴落が集中して見えるのは、そういう順番です。

マーク・トウェインの皮肉

作家のマーク・トウェインは1894年の小説のなかで、10月は株の投機にとくに危険な月だと書きました。そして続けて、7月も、1月も、9月も、4月も同じだと、12か月すべてを並べています。

「どの月も危ない」という皮肉です。130年前から、この話は繰り返されてきました。


10月は「底を打つ月」でもある

もうひとつ、あまり語られない事実があります。

大きな下落局面の底が、10月に来ていることが何度もあります。

1990年10月 湾岸危機による下落の底。日経平均はその月に +20.1%
2002年10月 ITバブル崩壊の底。S&P500はその月に +8.6%
2011年10月 欧州債務危機の底。S&P500はその月に +10.8%
2022年10月 インフレ・利上げ局面の底。S&P500はその月に +8.0%

10月に暴落が起きやすいのなら、その裏側で、10月に反転も起きやすいのは自然なことです。振れ幅が大きいとは、そういう意味です。

「10月が怖いから現金にしておく」という判断は、この反発を丸ごと逃すことでもあります。

本戸かな

下落を避けようと待っている間に、反発まで見送る可能性があるんですね。

真鍋 学

そういう年もある。だから「10月なら必ず売る・買う」と決めつけず、自分が大きな振れに耐えられる配分かを先に考えたいな。

前回の記事で書いたとおり、大きな下げと大きな上げは隣り合っています。

👉 「落ちてくるナイフをつかむな」は正しいのか――株の格言の意味と、拾ってよい時・危ない時


では、9月に売ればいいのか

ここで当然、こう考えたくなります。「9月に売って、11月に買い戻せばいいのでは」

おすすめしません。理由は3つあります。

1. 差が小さすぎる
9月と11月の平均の差は月あたり2%程度。売買のたびに手数料がかかり、利益が出ていれば約20%の税金も引かれます。差はすぐ消えます。

2. 外したときの損が大きい
10月には+20.1%や+16.6%の年があります。避けていた年がこれだと、1回で数年分の差が吹き飛びます。

3. 平均は将来の保証ではない
41年分の平均であって、来年がそうなるという意味ではありません。9月の勝率41.5%は、裏を返せば 約4割の年は上がっている ということです。

これは「セル・イン・メイ」を検証したときと同じ結論です。アノマリーは、統計としては見えても、手数料と税金を引くと消えてしまう程度の大きさでした。

本戸かな

カレンダーだけで売買すると、売る日と戻る日を両方当てる必要もありますね。

真鍋 学

せや。平均値は来年の予定表やない。まず取引にかかる費用と、外したときの取りこぼしを考えよか。

👉 「セル・イン・メイ」は本当に正しいのか — アノマリーの真実を検証する


では、10月に何をすればいいのか

下げに備えるのではなく、振れ幅に備えるのが答えだと私は考えています。

具体的には、こういうことです。

① 10月に大きく下げても、それは「想定内」だと先に知っておく 振れ幅が最大の月だと分かっていれば、下げたときに「異常事態だ」と感じずに済みます。慌てて売る確率が下がります。

② 10月に大きく上がっても、追いかけない 同じ理由で、上振れも起きやすい月です。「乗り遅れた」と感じて高値で飛び乗るのも、同じ穴です。

③ 積立の設定を、この時期にいじらない 荒れる月に判断を増やすほど、感情が入り込む余地が増えます。

👉 一括投資のほうが儲かるのに、なぜ積立が正解なのか――ドルコスト平均法の心理学


まとめ

  • 「10月は暴落の月」は、平均で見ると成り立たない。日経+0.25%、S&P500+0.99%でどちらもプラス
  • ただし騰落率の振れ幅は12か月中で最大。日経7.15%、S&P500 5.97%。下がる月ではなく、荒れる月
  • S&P500のワースト1位と2位はどちらも10月(1987年 −21.8%、2008年 −16.9%)。この2つが言い伝えを作っている
  • 同じ10月に、 +20.1%(日経1990年)や+10.8%(S&P500 2011年) もある。反転もまた10月に起きている
  • 日本では 「夏枯れ相場」はデータに出ている。日経平均で平均がマイナスなのは7・8・9月の3か月だけで、合計−1.50%。米国では同じ形にならない(S&P500の7月は+1.41%)
  • 統計的にいちばん弱いのは9月。日米そろって平均・勝率とも最下位。それでも誰も9月を恐れない
  • 私たちが恐れているのは「悪い月」ではなく、「名前が付いていて、思い出せる月」

10月が来たら、思い出してほしいことがひとつあります。

荒れることは分かっている。分からないのは、どちらに荒れるかだけです。

本戸かな

10月という名前で売買を決めるより、上下どちらでも慌てない準備をしておく、ですね。

真鍋 学

うん。過去の季節性は観察できる。でも、次の10月の方向を教えてくれるわけやないからな。


出典・参考資料

月別データの算出方法

  • 日経平均株価およびS&P500の月足終値(Yahoo!ファイナンス)をもとに、当ブログが前月末比の騰落率を算出したもの
  • 対象期間:1985年2月〜2026年8月(各499か月分)。10月のデータは1985年〜2025年の41年分
  • 平均・中央値・標準偏差・上昇した年の割合は、いずれも上記期間の単純集計。配当は含まない価格指数ベース

個別の出来事

  • 1929年10月24日「暗黒の木曜日」/10月28日・29日の急落は、世界恐慌の起点とされる出来事
  • 1987年10月19日「ブラックマンデー」 翌20日の日経平均は−14.90%で、1日の下落率としては過去最大
  • 2008年10月 リーマン・ブラザーズ破綻後の世界的な株価下落局面

引用

  • マーク・トウェイン『Pudd’nhead Wilson』(1894年)に登場する、10月と株式投機についての一節を要約したもの

行動経済学の概念

  • 利用可能性ヒューリスティックは、行動経済学における一般的な概念として記述しています

※株価はいずれも終値ベースです。「アノマリー」は経験則であり、将来も同じ傾向が続くことを示すものではありません。


本記事はアノマリーの検証と、行動経済学の一般的な解説であり、投資に関する個別の助言ではありません。特定の時期の売買を推奨するものでも、控えることを推奨するものでもありません。特定の銘柄や商品を勧めるものではありません。過去の値動きは将来の成果を保証しません。投資には元本割れリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。


相場格言・アノマリー検証シリーズ

当ブログでは、語り継がれてきた相場の格言や指標を、ひとつずつデータで検証しています。「言われているが、本当にそうなのか」を確かめた記事です。

👉 「靴磨きの少年の法則」とは――株の格言の意味と由来、そして現代のサイン  相場の天井を告げるとされる、最も有名な逸話

👉 逆イールドは「景気後退の予言」なのか――最も有名な経済指標の実力をデータで検証  プロが最も重視するサイン。的中率は本当に高いのか

👉 「頭と尻尾はくれてやれ」は本当にできるか——5つのバブル相場から学ぶ天井と底の正体  過去のバブルは、どんな形で終わったのか

👉 ブラッディ・マンデーは本当か——曜日別リターンのデータで「月曜暴落」を検証する  「月曜は下がる」という言い伝えの真偽

👉 なぜ移動平均線は世界で最も使われる指標なのか——「みんなが見ている」では勝てない理由  最も普及した指標が、なぜ効かなくなるのか

👉 「ダウの負け犬」とは――高配当株で儲かる仕組みと、知らないと損する落とし穴  高配当株の古典的な手法。いまも通用するのか

👉 「灰色のサイ」は誰の目にも見えているのに——見過ごされる巨大リスクの正体  見えているのに対処されないリスクの話

👉 「株式の死」はまた訪れるのか――NISAブームの今こそ知りたい、株が16年眠った時代  株が16年眠った時代。いま起きたらどうなるか

👉 「二番底」を待つのは正しいのか――コロナ後に11か月動けなかった私が失ったもの  待ちすぎる失敗。11か月動けなかった記録

👉 暴落のサインとは――「これが出たら危ない」と言われる7つを検証した結果  シリーズ全体をまとめたハブ記事