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基礎知識

【年収別】iDeCoとNISA、どちらが得か――退職金2000万円で結論が変わる

iDeCoは掛金が全額所得控除になる強力な制度ですが、受け取るときに退職金と合算されて課税されます。では退職金がいくらまでならiDeCoのほうが得なのか。年収別に損益分岐点を計算しました。退職金ゼロの人、60歳まで引き出せないリスクまで解説します。

注記: 本記事は投資助言ではありません。行動経済学・心理学の観点からお金の判断を考えるための情報提供です。

「NISAは知ってるけど、iDeCoってよく分からない」 「税金が安くなるらしいけど、結局どっちがいいの?」

とてもよくある疑問です。そして、答えは人によって変わります

iDeCoには「掛金が全額所得控除になる」という、NISAにはない強力な武器があります。ところが同時に、受け取るときに税金がかかるという落とし穴も抱えています。

つまり、こういう構造です。

入口で得をして、出口で払う。 どちらが大きいかで、iDeCoが得か損かが決まる。

そして出口の税額を左右するのが、退職金の額です。

今回は「では、退職金がいくらまでならiDeCoのほうが得なのか」を、実際に計算しました。

まず、30秒で結論から。

📌 30秒でわかる結論

💰 iDeCoの武器は「掛金が全額所得控除」
年収500万円・月2.3万円なら、30年で約166万円の節税。NISAにこの機能はない

⚠️ 落とし穴は「受取時の課税」
退職金と合算され、控除枠を超えた分に課税される

🎯 分岐点(年収500万円の場合)
退職金が約2,055万円を超えるとNISAのほうが得になる

📈 年収が高いほどiDeCoに有利
年収700万円なら約3,000万円、900万円なら約3,375万円まで耐える

🏆 退職金ゼロの人はiDeCo一択
自営業・フリーランスは、課税される心配がほぼない

🚨 ただし60歳まで引き出せない
その頃には税制が変わっている可能性が高い。この不確実性が最大のリスク
※本記事の数字はすべて2026年8月時点の計算方法にもとづく概算です

順番に見ていきます。


1. そもそもiDeCoとNISAは何が違うのか

まず基本から確認します。ここが曖昧だと、この先の話が入ってきません。

両方とも「運用で増えた利益に税金がかからない」点は同じです。違いは、その前後にあります。

iDeCoとNISAの違い

iDeCoNISA
入れるとき全額が所得控除
(税金が安くなる)
何もなし
増えた利益非課税非課税
受け取るとき課税される
(控除枠を超えた分)
完全に非課税
引き出し原則60歳まで不可いつでも可
手数料月171円程度〜口座管理料なし

※手数料は金融機関により異なります。制度内容は2026年8月時点の一般的な解説です。

この表の1行目と3行目が、今回の話の中心です。

iDeCoは入口で得をする代わりに、出口で払う。NISAは入口で何もない代わりに、出口が完全に無税。

どちらが大きいか——それだけの話なのです。


2. iDeCoの武器:入口の節税はどれくらいか

まず、iDeCoの強みから見ていきます。

iDeCoに入れたお金は全額が所得控除になります。つまり、その分だけ税金の計算対象から外れます。

会社員(企業年金なし)の上限である月2.3万円=年27.6万円を入れた場合、年収別の節税額はこうなります。

💰 年収別・iDeCoの節税額(月2.3万円の場合)

年収税率の目安年間の節税30年の合計
300万円15%約4.1万円約124万円
500万円20%約5.5万円約166万円
700万円30%約8.3万円約248万円
900万円33%約9.1万円約273万円
1,200万円43%約11.9万円約356万円

※税率は所得税+住民税10%の概算です。正確には年収ではなく「課税所得」で決まるため、扶養や控除の状況により変わります。

年収が高い人ほど、節税額が大きくなるのがポイントです。税率が高いぶん、控除の効き目も大きくなるためです。

年収500万円の人でも、30年で約166万円。決して小さくありません。


掛金の上限は、職業によって違う

なお、iDeCoに入れられる額は誰でも同じではありません。職業や勤務先の年金制度によって上限が変わります

💼 立場別・iDeCoの掛金上限(目安)

立場月あたりの上限
自営業・フリーランス6.8万円
会社員(企業年金なし)2.3万円
会社員(企業年金あり)2.0万円
公務員2.0万円
専業主婦(夫)2.3万円

※2026年8月時点の目安です。企業年金がある場合は他制度の掛金との合算で上限が決まるなど条件が細かく、改正も頻繁です。必ずiDeCo公式サイトや勤務先で確認してください。

自営業の上限が会社員の約3倍という点に注目してください。これは偶然ではなく、退職金も厚生年金もない人を支えるための制度設計です。この点は後半でもう一度触れます。


3. iDeCoの落とし穴:出口で課税される

ここからが本題です。

iDeCoで積み立てたお金は、60歳以降に受け取ります。このとき、多くの人は一時金(まとめて受け取る方法)を選びます。

そしてこの一時金は、退職金と同じ扱いになります。

⚠️ ここが誤解されやすい

「iDeCoは非課税だから、受け取るときもタダ」
——これは間違いです

⭕️ 正しくは「退職金と合算され、控除枠を超えた分に課税される」

しかも課税対象は運用で増えた分だけではありません。元本を含めた受取額の全体が対象になります。

つまり、退職金がすでに多い人ほど、iDeCoの受取が課税されやすいわけです。

退職所得控除とは

ここで登場するのが退職所得控除という枠です。「これ以下なら税金はかかりません」という非課税の枠で、勤続年数が長いほど大きくなります。

📏 勤続年数別・退職所得控除の額

勤続年数控除額(この額まで無税)
10年400万円
20年800万円
30年1,500万円
38年2,060万円
40年2,200万円

計算式:勤続20年まで=年40万円ずつ/20年超=800万円+超えた年数×70万円
※これは2026年8月時点の計算方法です。この式そのものが将来変更される可能性は十分にあります。

⚠️ この計算式は「変わりうる前提」です

20年を境に控除額が増えるこの仕組みは、「転職を妨げている」として長く見直しの議論が続いてきました。 実際、控除額を一律にする案や、20年超の優遇を縮小する案が、これまで何度も検討されています。

もし将来この式が変われば、この記事で計算した分岐点も動きます。 20年超の70万円が仮に40万円に統一されれば、勤続38年の控除枠は2,060万円から1,520万円へ、 500万円以上も縮小する計算になります。

そして、その頃には積立をやめることも引き出すこともできません。この点は後半の第7章で詳しく扱います。

さらに、控除枠を超えた分についても、その半分だけが課税対象になります(1/2課税)。退職金は税制上かなり優遇されているのです。


4. 【本題】退職金がいくらまでならiDeCoが得か

準備が整いました。実際に計算します。

🧮 計算の前提

iDeCoの掛金月2.3万円 × 30年(拠出総額828万円)
運用利回り年3%と仮定 → 約1,340万円に成長
勤続年数38年(退職所得控除2,060万円)
受け取り方退職金とiDeCoを同じ年に一時金で受け取る
比較の方法「拠出時の節税額」から「iDeCoによって増える税額+手数料」を引く

※簡略化した概算です。実際は加入年数と勤続年数の重複調整などがあり、条件により結果は変わります。

年収500万円の場合

節税額は30年で約166万円。これに対して、退職金別に「iDeCoで増える税金」を計算しました。

年収500万円・退職金別の損得(30年の合計)

退職金節税額増える税金差引
0円166万円0円+165万円
500万円166万円0円+165万円
1,000万円166万円21万円+144万円
1,500万円166万円75万円+90万円
2,000万円166万円151万円+14万円
2,500万円166万円199万円▲34万円

差引がプラスならiDeCo有利、マイナスならNISA有利。手数料(約7万円)を含めた概算です。

分岐点は、退職金 約2,055万円でした。

退職金2,000万円のところで、差引が+14万円まで縮んでいます。ほぼトントンです。

日本の大企業の定年退職金は2,000万円前後と言われますから、多くの会社員がちょうどこの境界線の上にいることになります。

年収別の分岐点

年収が変わると、この分岐点も動きます。

🎯 年収別・iDeCoが得でいられる退職金の上限

年収30年の節税額分岐点となる退職金
500万円約166万円約2,055万円
700万円約248万円約3,000万円
900万円約273万円約3,375万円

※この分岐点は、2026年8月時点の退職所得控除の計算式にもとづく概算です。計算式が変われば、分岐点も変わります。

ここに、意外な事実があります。

年収が高い人ほど、iDeCoの許容範囲が広い。

年収500万円の人は退職金2,055万円で逆転しますが、年収900万円の人は3,375万円まで耐えます。入口の節税が大きいぶん、出口の課税に耐えられるからです。

「高収入の人ほどiDeCoが有利」というのは、直感に反するかもしれませんが、制度上そうなっています。


5. 退職金ゼロの人は、迷う必要がありません

ここまでは会社員の話でした。では、退職金がない人はどうでしょうか。

  • 自営業・フリーランス
  • 退職金制度のない会社に勤めている人
  • 転職を繰り返して勤続年数が短い人

この場合、受取時に課税される心配がほとんどありません

🏆 退職金ゼロの会社員(年収500万円)の場合

入口の節税
+166万円
出口の課税
0円
差引
+165万円

iDeCo資産1,340万円は、退職所得控除2,060万円の枠内に完全に収まります。節税額がまるまる手元に残る計算です。

さらに自営業の方は、掛金の上限が月6.8万円と会社員の3倍近くあります。節税インパクトはさらに大きくなります。

退職金がない人にとって、iDeCoは制度上いちばん報われる設計になっている。

会社員向けの記事ばかりが目につきますが、本来この制度は、退職金のない人のためのものです。


6. 退職金が多い人にも、逃げ道はある

「うちは退職金が2,500万円ありそうだから、iDeCoはダメか」——そう結論を急がないでください。

実は、受け取り方には3つの選択肢があります。ここを知っているかどうかで、結果が変わります。

📦 iDeCoの3つの受け取り方

方法使える控除向いている人
一時金退職所得控除退職金が少ない人
年金(分割)公的年金等控除退職金が多い人
併用両方枠を使い切りたい人

ポイントは2行目です。

退職金で退職所得控除の枠を使い切ってしまう人は、iDeCoを一時金ではなく年金形式(5〜20年の分割)で受け取るという手があります。こうすれば退職所得控除の枠を奪い合わず、**別枠の「公的年金等控除」**を使えます。

ただし、こちらにも注意点があります。

⚠️ 年金形式にも弱点がある

① 公的年金と合算される
国民年金・厚生年金と合わせて計算されるため、そちらで控除枠を使い切っていると課税されます

② 社会保険料が増える可能性
受取額が所得として扱われ、国民健康保険料や介護保険料に影響することがあります

③ 受取のたびに手数料がかかる
振込1回ごとに数百円。20年の分割なら、回数分だけ積み上がります

つまり「年金形式にすれば必ず得」ではありません。退職金・公的年金・iDeCoの3つを合わせて考える必要があります。

ここは個人差が大きく、記事で一律の答えを出せる領域ではありません。受け取りが近づいたら、税理士や金融機関に具体的な数字で相談することを強くおすすめします。

ただ、少なくとも**「退職金が多い=iDeCoは無意味」ではない**とは言えます。選択肢は残されています。


7. 🚨 最大のリスクは「60歳まで引き出せない」こと

ここまで税金の話をしてきましたが、iDeCoで本当に注意すべきなのは、実は別のところにあります。

⚠️ 30年後のルールは、誰にも分からない

iDeCoは原則60歳まで引き出せません。途中で「やっぱりやめた」ができない制度です。

つまり、いま30歳の人は30年後のルールで受け取ることになります。そして税制は、ほぼ確実に変わります

これは想像の話ではありません。実際に、すでに変わっています。

📅 直近で起きた制度変更の例

「5年ルール」→「10年ルール」に変更
iDeCoを先に一時金で受け取り、あとから退職金を受け取る場合、以前は5年空ければ控除枠を別々に使えました。これが10年に延長されています(2026年1月以降の受給分から)。

この「5年空けて受け取る」は、節税の王道テクニックとして広く紹介されていた方法でした。それが制度変更で使えなくなったのです。

この事実が意味することは重いです。

今日の計算が、30年後にそのまま通用する保証はどこにもない。

退職所得控除そのものが縮小される議論も、これまで繰り返し出てきました。もし控除枠が小さくなれば、今回計算した「分岐点2,055万円」も下がります。

そして怖いのは、ルールが変わっても、iDeCoからは逃げられないことです。NISAならいつでも引き出せますが、iDeCoは60歳まで動かせません。

🔒 iDeCoが抱える2種類の「動かせなさ」

① お金が動かせない
住宅購入、子どもの教育費、病気、失業——どんな事情があっても60歳まで引き出せません

② ルールから逃げられない
受取時の税制が不利に変わっても、途中で解約して避難することができません

だからこそ、iDeCoに全額を集中させるのは危険です。

私が現実的だと思うのは、次の考え方です。

NISAを土台にして、iDeCoは節税メリットが確実に大きい範囲で上乗せする。

NISAは引き出し自由で、受取時も完全非課税。ルール変更のリスクが小さいぶん、土台に向いています。

👉 新NISAで売ったら枠は復活するのか――いつ・いくら戻るのかを図で解説


8. 判定:あなたはどちらを優先すべきか

ここまでの内容を、判断できる形にまとめます。

🎯 タイプ別の判定

⭕️ iDeCoを活かせる人
・退職金がない、または少ない
・自営業・フリーランス
・年収が高く、税率が高い
・60歳まで使う予定のない余裕資金がある
❌ NISAを優先すべき人
・退職金が2,000万円を大きく超える見込み
・住宅や教育費で使う可能性がある
・収入が不安定で、拠出を止めたくなるかも
・そもそも所得税をあまり払っていない

最後の項目は見落とされがちです。iDeCoの節税は「払っている税金を減らす」仕組みなので、税金をあまり払っていない人(扶養内のパートなど)には、そもそも入口のメリットがほとんどありません。

その場合、引き出し自由なNISAのほうが素直に有利です。


9. まとめ

  • iDeCoは入口で得をして、出口で払う制度。NISAは入口も出口もシンプル
  • 年収500万円・月2.3万円なら、30年で約166万円の節税
  • ただし退職金が約2,055万円を超えると、NISAのほうが有利に逆転する
  • 年収が高いほど許容範囲は広い(年収900万円なら約3,375万円まで)
  • 退職金ゼロの人はiDeCo一択。節税額がまるまる残る
  • 最大のリスクは税金ではなく、60歳まで動かせないこと。その間にルールは変わる

結論として、私はこう考えています。

iDeCoは「使える人には強力だが、全員向けの制度ではない」。 まずNISAを土台に置き、自分の退職金の見込みを確認してから、上乗せを検討する。

大事なのは、勤務先の退職金がいくらになりそうかを先に把握することです。就業規則や退職金規程に書かれていますし、人事に聞けば教えてもらえます。

そこが分からないまま「節税になるらしい」でiDeCoを始めると、30年後に「思ったほど得しなかった」となりかねません。

計算してから決める。それだけで、判断の質は大きく変わります。


出典・参考資料

制度に関する情報

シミュレーションについて

  • 本文中の試算(節税額、分岐点となる退職金額など)は、記載した前提条件にもとづき当ブログが独自に計算した概算です。勤続年数と加入年数の重複調整、他の所得、各種控除の状況により実際の税額は変わります。

※掲載した掛金上限・税制は2026年8月時点の情報です。改正が頻繁な分野のため、必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。


本記事は制度の一般的な解説であり、税務に関する個別の助言ではありません。記載の税額・分岐点はすべて簡略化した前提に基づく概算であり、実際の税額は勤続年数と加入年数の重複調整、他の所得、各種控除の状況などにより大きく変わります。制度内容および税制は2026年8月時点の情報にもとづくもので、将来変更される可能性があります。実際の判断にあたっては、国税庁・iDeCo公式サイトの最新情報をご確認のうえ、必要に応じて税理士など専門家にご相談ください。投資には元本割れリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。