なぜ配当金をもらうと嬉しいのか――「タダでもらった」は錯覚。インデックスと高配当株、幸福なのはどちらか
配当が振り込まれた日、株価はその分下がっています。自分の資産を切り出しただけなのに、なぜ「もらえた」と感じるのか。メンタル・アカウンティングと「フリー配当の錯覚」から、その正体を解説します。そのうえで、インデックス投資と高配当株投資は心理学的にどちらが幸福なのかを、幸福研究の知見と照らして比べます。
証券口座に、配当金が振り込まれる。
金額は数千円かもしれません。それでも通知を見た瞬間、少し嬉しい。「持っているだけでお金が入ってきた」という感覚があります。
ところが、この「もらった」という感覚には、ひとつ不都合な事実があります。
配当が支払われると、株価はその分だけ下がります。
つまり、どこかから新しくお金が湧いてきたわけではありません。自分の資産の一部を、現金の形に切り出して受け取っているだけです。
それなのに、なぜこれほど嬉しいのか。そして——嬉しく感じることは、悪いことなのでしょうか。
この記事では、配当の嬉しさの正体を行動経済学から解き明かします。そのうえで、インデックス投資と高配当株投資は、心理学的にどちらが幸福なのかを考えます。
まず事実:配当は「増えた」のではなく「移した」
配当を出す日の前日を「権利付き最終日」、その翌営業日を「権利落ち日」と呼びます。権利落ち日には、理論上、配当の分だけ株価が下がります。
具体的に見てみます。
= 株式の評価額 100,000円
現金 0円
= 株式の評価額 97,000円
現金 3,000円
実際の株価は需給で動くので、ぴったり配当分だけ下がるとは限りません。それでも、配当は企業の外から降ってくるお金ではなく、企業(=株主の持ち物)の中から出ていくお金であることに変わりはありません。
さらに、課税口座で受け取った配当には 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が源泉徴収されます。3,000円の配当なら、手元に残るのは2,391円です。
ここまで見ると、配当は「嬉しいこと」どころか、むしろ資産を目減りさせる仕組みにすら見えます。
それでも、私たちは配当が嬉しい。ここに心理学が入ってきます。
理由1:心の中には、いくつもの財布がある
同じ1万円でも、人はそれを「どの財布から来たか」で扱いを変えます。
給料の1万円は慎重に使う。パチンコで勝った1万円は気前よく使う。この現象を、リチャード・セイラー(2017年ノーベル経済学賞)はメンタル・アカウンティング(心の会計)と名づけました。
お金には本来、色はついていません。しかし人の頭の中には、いくつもの心の財布があります。
投資においても、まったく同じことが起きます。
配当の財布 …… 使ってよいお金。減っても元本は無傷
会計上はどちらも同じ「自分の資産」です。株を3,000円分売っても、配当を3,000円受け取っても、資産は同じだけ減ります。
それでも、株を売るのは「元本を取り崩した」と感じ、配当を使うのは「果実をいただいた」と感じる。
この感じ方の違いが、配当の嬉しさの正体です。
理由2:嬉しいことは、分けて受け取るほど嬉しい
セイラーは同じ研究の中で、もうひとつ重要なことを指摘しています。利益は、まとめて受け取るより、分けて受け取ったほうが嬉しく感じるというものです。
宝くじで1万円が1本当たるより、5,000円が2本当たるほうが嬉しい。同じ額なのに、です。
これを投資に当てはめます。
Bさん:高配当株。株価は横ばいだが、配当を 年2回×15,000円 受け取った
増えた額はどちらも3万円です。しかし、Bさんには「嬉しい瞬間」が2回あり、Aさんには1回もありません。
Aさんの3万円は、証券口座の評価額という数字が少し変わっただけで、多くの場合そもそも気づかれないからです。
なお、日本企業の配当は年2回(中間配当と期末配当)が主流です。年1回だけの会社もあります。年4回が一般的なのは米国株で、日本でもETFには年4回のものがあります。ただし回数が増えても、受け取る合計額が増えるわけではありません。
理由3:実際に、投資家は配当を株価と切り離して見ている
ここまでは理論の話です。実際のデータではどうでしょうか。
シカゴ大学のハーツマークとサザンカリフォルニア大学のソロモンが2019年に発表した「The Dividend Disconnect(配当の断絶)」という研究があります。個人投資家・投資信託・機関投資家の実際の取引を分析したものです。
結論は明快でした。
多くの投資家が、配当と値上がり益をつながっていない別々のものとして扱い、配当が株価の下落をもたらすことを十分に理解しないまま取引している。
研究者はこれを「フリー配当の錯覚(free dividends fallacy)」と呼びました。配当をタダでもらえるお金だと思い込む錯覚、という意味です。
論文が示した投資家の行動には、次のようなものがあります。
配当を「安定した収入の流れ」として、元本とは別扱いしている
その結果、そうした時期に買われた配当株のその後の成績は低くなる傾向があった
3つ目は少し厳しい指摘です。「利息がつかないから」「相場が不安だから」という理由で配当株に人が集まると、その時点では割高になっている、ということを示しています。
では、配当を喜ぶのは間違いなのか
ここで話が終われば、「配当を喜ぶのは無知だ」という結論になります。
しかし、そう単純ではありません。
前述のセイラーと並んで、シェフリンとスタットマンという二人の研究者が1984年に発表した論文があります。タイトルは「投資家が現金配当を好む理由の説明」。彼らは、配当を好むことには合理的な機能があると論じました。
「元本は絶対に売らない。配当だけで生活する」というルールを自分に課せば、暴落しても売らずに済む
後悔を減らせる
自分で売った株が翌日に急騰したら悔やむ。配当は自分で決めていないので、後悔しようがない
つまり、「錯覚」は、使い方しだいで「装置」になるのです。
意志の力で株を持ち続けるのは難しい。しかし「配当をもらう」という仕組みに乗ってしまえば、意志を使わずに持ち続けられる。これは軽い話ではありません。
当ブログでは繰り返し「意志ではなく仕組みで」と書いてきました。配当は、まさにその仕組みのひとつとして機能しうるということです。
インデックス投資と高配当株投資、心理学的に幸福なのはどちらか
ここからが本題です。
お金の増え方(合理性)ではなく、「投資を続けているあいだ、どちらが心穏やかでいられるか」 という観点で比べます。
まず、お金の面ではインデックスが有利
心理の話に入る前に、事実を確認しておきます。
課税口座で比べた場合、配当は受け取るたびに20.315%が引かれます。 一方、分配金を出さないインデックス投信は、内部で得た配当を再投資し、売るまで課税されません。この課税の繰り延べが、長期では効いてきます。
同じ利回りなら、配当を出さないほうが複利が速く回る。ここは動かせない事実です。
ただし、NISA口座であれば配当も非課税になるので、この差は消えます(国内株の配当を非課税で受け取るには、受取方法を「株式数比例配分方式」にしておく必要があります)。
そのうえで、心理面を4つの観点で比べる
① 喜びの「回数」
幸福研究には、よく知られた知見があります。心理学者エド・ディーナーらは1991年、「幸福とは、ポジティブな感情の強さではなく、頻度である」と論じました。大きな喜びが一度あることより、小さな喜びが何度もあることのほうが、主観的な幸福度をよく説明したのです。
日本株なら年2回、米国株なら年4回。そしてインデックス投信は0回です。この点では高配当株に軍配が上がります。
ただし、回数が多いほど幸福というわけでもないでしょう。年2回と年4回で幸福度が倍になるとは考えにくく、大きいのは「0回と2回」の差であって、そこから先は緩やかだと考えられます。
② 慣れ
ただし、人はどんな喜びにも慣れます(快楽順応)。1年目に嬉しかった配当も、5年目には当たり前になります。
これはインデックスの評価額も同じです。どちらも慣れます。 ただし、配当は「入金」という出来事なので、静かに増える評価額よりは気づきやすい。わずかに高配当株が有利でしょう。
③ 暴落したとき
ここが最も差の出るところです。
インデックス投資家が暴落時に見るのは、評価額という一本の数字だけです。それが3割減れば、見えるものはすべて悪い知らせになります。
高配当株投資家には、もうひとつ別の数字があります。配当の入金です。株価が3割下がっても、減配されなければ配当は同じ額が振り込まれる。「株価は下がったが、収入は減っていない」と思える指標が手元に残ります。
この点は高配当株が有利です。 ただし注意も必要で、業績が悪化すれば配当も減ります(減配)。「配当は減らない」という前提そのものが、暴落時に崩れることがあります。
④ 出口——お金を使うとき
見落とされがちですが、実はここが一番重い問題です。
インデックス投資は、自分で売らないと1円も使えません。 そして人は、育ててきた資産を自分の手で取り崩すことが、驚くほど苦手です。損失回避と現状維持バイアスが働き、「もう少し待とう」と言い続けたまま何年も過ぎていきます。
配当は、この判断を必要としません。何もしなくても、勝手に入ってきます。
👉 インデックス投資の出口戦略とは――何%ずつ取り崩せばお金は尽きないのか
まとめると
| 観点 | インデックス投資 | 高配当株投資 |
|---|---|---|
| 税金・複利 | ◎ 課税を繰り延べられる | △ 都度20.315% NISAなら非課税 |
| 喜びの回数 | △ 数字が変わるだけ | ◎ 年2回の入金 米国株なら年4回 |
| 暴落に耐える力 | △ 評価額しか見えない | ○ 入金という別の支え ただし減配リスク |
| 使うとき | △ 自分で売る決断が必要 | ◎ 判断がいらない |
| 手間 | ◎ 1本買えば終わり | △ 銘柄選びと管理が要る |
| 失敗したときの傷 | ◎ 分散されている | △ 1社の減配が直撃 |
答えは「どちらも使える」です。優劣ではなく、得意な場面が違うだけです。
インデックスは、お金の面で強い。 税金でも手間でも分散でも有利です。弱点は、心理面での支えが「評価額」しかないこと。だから暴落で耐えられず、出口で取り崩せない。
高配当株は、心理の面で強い。 続けやすく、耐えやすく、使いやすい。弱点は、そのために税金と分散を差し出していること。
どちらかが劣っているのではありません。この2つは、支えている場所がそもそも違います。
高配当株は「続けられる」。
そして投資では、続けられなかった正しい方法より、続けられた方法のほうが結果を残します。
理論上どれだけ優れていても、暴落で売ってしまえばそこで終わりです。自分がどちらなら続けられるかを知ることが、どちらが正しいかを知ることより重要だ、というのが当ブログの立場です。
錯覚を、味方につける3つの方法
「配当が嬉しいのは錯覚だ」と知ったうえで、それでも使う。そのための具体的な方法を3つ挙げます。
まとめ
- 配当が支払われると、株価はその分下がる。資産が増えたわけではなく、形が変わっただけ
- それでも嬉しいのは、心の中に「元本の財布」と「配当の財布」が別々にあるから(メンタル・アカウンティング)
- 利益は分けて受け取るほど嬉しく感じる。配当は日本株なら年2回、インデックス投信は0回
- 実際のデータでも、投資家は配当と株価を切り離して見ている(フリー配当の錯覚)
- ただし、この錯覚は「売らずに持ち続けるための装置」としても働く
- インデックスと高配当株を比べると、お金の面ではインデックス、心理の面では高配当株が有利
- 続けられなかった正しい方法より、続けられた方法のほうが結果を残す
配当が嬉しいという感覚は、消す必要はありません。それが錯覚だと知ったうえで残しておけば、暴落の日に自分を支えてくれる数少ない味方になります。
大事なのは、錯覚に気づかないまま使うことと、気づいたうえで使うことの違いです。
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出典・参考資料
メンタル・アカウンティング(心の会計)と、利益を分けて受け取る効果
- Richard H. Thaler「Mental Accounting and Consumer Choice」Marketing Science Vol.4, No.3, pp.199-214(1985年)
- Richard H. Thaler「Mental Accounting Matters」Journal of Behavioral Decision Making Vol.12, No.3, pp.183-206(1999年)
投資家が現金配当を好む理由(自制心・後悔回避の観点)
- Hersh M. Shefrin & Meir Statman「Explaining Investor Preference for Cash Dividends」Journal of Financial Economics Vol.13, No.2, pp.253-282(1984年)
フリー配当の錯覚の実証
- Samuel M. Hartzmark & David H. Solomon「The Dividend Disconnect」The Journal of Finance Vol.74, No.5, pp.2153-2199(2019年) 個人投資家・投資信託・機関投資家の取引を分析。投資家が配当と値上がり益を別々のものとして扱い、配当が株価下落を伴うことを十分に考慮していないと報告 論文ページ
幸福は感情の「強さ」ではなく「頻度」で決まる
- Ed Diener, Ed Sandvik & William Pavot「Happiness Is the Frequency, Not the Intensity, of Positive Versus Negative Affect」in Subjective Well-Being: An Interdisciplinary Perspective(Pergamon Press, 1991年)pp.119-139
配当課税
- 国税庁「配当金を受け取ったとき(配当所得)」 国税庁タックスアンサー No.1330
- 金融庁「NISAを知る」 金融庁 NISA特設ウェブサイト
※権利落ち日の株価は理論上配当分だけ下がりますが、実際の値動きは市場の需給によって変わります。表中の「◎○△」は当ブログによる評価であり、客観的な指標ではありません。
本記事は行動経済学・幸福研究の一般的な解説であり、投資に関する個別の助言ではありません。インデックス投資と高配当株投資のいずれかを推奨するものではなく、特定の銘柄や商品を勧めるものでもありません。税制は改正される場合があります。研究の数値は原典にもとづく概要です。投資には元本割れリスクがあり、配当は減配・無配となる可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。