インデックス投資の出口戦略とは――何%ずつ取り崩せばお金は尽きないのか
インデックス投資の取り崩し方を、定額法・定率法・4%ルールに分けて解説。インフレ調整、序盤の暴落、資産が何年もつかを再計算し、年金・NISAを踏まえた出口の考え方を整理します。
インデックス投資の取り崩し方には、毎年同じ金額を出す定額法と、残高に一定割合を掛ける定率法などがあります。4%ルールも参考になりますが、資産が尽きないことを保証する仕組みではありません。 毎年使える金額の安定性と、資産が長くもつことには、両立が難しい面があります。
出口で考えたいのは、「何%なら安心か」だけではなく、毎年いくら必要で、相場が悪い年にどこまで金額を変えられるかです。年金などで足りない金額を確かめ、取り崩し方と保有する資産の組み合わせを考えます。
この記事では、混同されやすい三つの方法を先に整理し、3,000万円からの取り崩しを計算します。暴落の順番を変えた試算では、20年後に約443万円と約3,209万円という差が出ました。ただし、これは架空の利回りによる独自試算です。歴史的な研究の結果とは分けて見ていきましょう。
1. 取り崩し方は3つに分けて考える
「4%ずつ取り崩す」という説明だけでは、翌年の金額を決められません。最初の資産に4%を掛けるのか、その年の残高に掛けるのかで結果が変わるからです。本稿では、定額法を「物価調整をせず、名目の金額を固定する方法」として使います。
| 方法 | 3,000万円で始めた初年度 | 翌年以降の決め方 | 注意する点 |
|---|---|---|---|
| 定額法(名目額固定) | 120万円 | 毎年120万円のまま | 物価が上がると同じ金額で買えるものが減る |
| 一般的な4%ルール | 120万円 | 前年の取り崩し額を物価に合わせて調整 | 必要な取り崩し額が増える場合がある |
| 定率法 | 120万円 | その年の取り崩し前残高×4% | 残高が減ると生活に使える金額も減る |
4%ルールの「4%」は初年度の基準
一般的な4%ルールでは、退職時などの資産額の4%を初年度の取り崩し額とし、翌年以降はその金額を物価に合わせて増減させます。毎年、最新の残高から4%を計算し直す方法ではありません。
例えば物価が毎年2%上がると仮定すると、取り崩し額は次のようになります。
| 年 | 4%ルールの取り崩し額 | 名目額固定の定額法 |
|---|---|---|
| 1年目 | 120万円 | 120万円 |
| 2年目 | 122万4,000円 | 120万円 |
| 3年目 | 124万8,480円 | 120万円 |
これは仕組みを説明する計算例で、物価上昇率2%という予測ではありません。物価が下がる場合も含め、使う物価指標と調整方法を決める必要があります。定額という言葉を「実質的な購買力を一定にする」という意味で使う資料もあるため、名前だけでなく計算方法を確認しましょう。

毎年4%を掛け直すつもりで読んでいました。初年度が同じ120万円でも、その後は別の方法なんですね。

そうやね。同じ「4%」という名前の電車でも、行き先が違うようなものや。乗る前に、何に4%を掛けるのか確かめよう。
2. 4%ルールの研究は何を確かめたのか
4%ルールの出発点として知られるのは、William P. Bengenが1994年に発表した研究です。米国の株式と中期国債を組み合わせ、初年度の取り崩し率と、その後の物価調整が資産の寿命にどう影響するかを調べました。過去の厳しい局面を含めて検討した目安であり、あらゆる国と将来に適用できる保証ではありません。Bengenの原論文公開ページ
トリニティ研究の「98%」は将来の確率ではない
1998年にCooley、Hubbard、Walzが発表した、いわゆるトリニティスタディでは、1926〜1995年の米国のデータを使い、資産配分、取り崩し率、取り崩す期間による違いを調べています。
原論文の物価調整を行う表(Table 3)で、株式75%・債券25%、初年度4%、30年間という条件の成功率は約98%です。この債券は長期・高格付け社債で、Bengenの中期国債とは異なります。「米国の債券」という一言で同じ条件だと考えないことが大切です。掲載誌の原文
成功とは、対象期間の最後に残高が0より大きいことです。元本を維持できた、十分な遺産が残った、という意味ではありません。また、約98%は開始年をずらした過去の41期間で測った割合で、期間同士は重なっています。独立した41回の実験や、今から投資する人の成功確率ではありません。
研究の税金・取引費用の扱い、投資先、物価、期間を変えれば結果も変わります。株式100%のインデックスファンドだけを持つ計画も、この株式75%・社債25%の条件とは別です。
2026年向け研究の紹介も、条件とセットで読む
Morningstarが2025年12月に公表した2026年向けの研究紹介では、物価調整後の支出を一定にする場合、30年間、成功確率90%という条件で、初期取り崩し率3.9%が示されています。株式比率30〜50%の組み合わせでの推計で、将来の収益率や物価について仮定を置く方法です。
過去データで成功した割合を調べるトリニティ研究と、同じ種類の数字ではありません。「4%が3.9%になったから、日本でもこの数字が正解」とは読めません。本稿のこの説明は、公表元の研究紹介と著者による解説に基づきます。Morningstarの公式紹介・著者による解説(2025年12月3日)
3. 暴落の順番だけで、取り崩した後の残高は変わる
取り崩し期には、利回りがどの順番で来るかも重要です。序盤の下落と取り崩しが重なると、その後の回復に参加する元手が減ります。これを収益率配列のリスクと呼びます。ただし、暴落の大きさやインフレも重要で、順番だけがすべてを決めるわけではありません。
違いを見るために、次の架空の相場を比べます。
独自試算の共通条件
初期資産3,000万円。毎年初めに120万円を取り崩し、残りを1年間運用。20年間の利回りは−20%が3回、+8%が17回。最初の3年が下落する場合と、最後の3年が下落する場合を比較します。税金・費用・インフレは含めません。これは名目額固定の定額法で、物価調整を行う4%ルールの再現ではありません。
二つの相場は、年次利回りの単純な算術平均がどちらも3.8%です。取り崩しがなければ、この20年間の資産の増加倍率も同じになります。それでも毎年120万円を出すと、20年後の残高には約2,767万円の差が生じました。丸める前の値で比を計算すると、約7.3倍です。
序盤に下落するケースを追うと、1年目末は2,304万円、2年目末は1,747万2,000円、3年目末は1,301万7,600円です。その後の+8%は、最初の3,000万円ではなく、減った残高に対して働きます。
積立期も値動きの順番の影響を受けます。下落時に同額で多く買えることはありますが、それが有利になるにはその後の値動きや保有期間などが関係します。「積立なら暴落は必ず得」という話にはなりません。長い低迷の中で積み立てた例は、失われた30年の日本株シミュレーションで条件付きで検証しています。
4. 定率法では、残高と受取額の両方を見る
同じ序盤の暴落でも、毎年、その年の残高の4%を出す定率法に変えると、20年後の残高は約2,512万円になります。ただし、定額法より多く残ったことだけで、より優れた方法だとは判断できません。使えた金額も違うからです。
定額法:毎年120万円
20年後の残高
約443万円
20年間の受取総額
2,400万円
定率法:毎年残高の4%
20年後の残高
約2,512万円
20年間の受取総額
約1,536万円
同じ初期資産・利回り・期間・年初取り崩しによる独自計算です。定率法は、生活に回す金額を減らして残高の減少を抑えています。残高と受取総額を足して比べても、受け取った時期や、そのお金を使った価値までは評価できません。
「尽きない」と「生活できる」は別
この定率法の受取額を月額換算すると、最初は10万円、2年目は7万6,800円、3年目は約5万9,000円、最も少ない4年目は約4万5,300円です。取り崩し後の残高が残っていても、毎月10万円が必要な家計では不足します。
純粋な定率法では、残高の全額を引き出さないため、収益率が毎年−100%より大きく、固定額の費用や最低取り崩し額などもなければ、計算上は有限年で残高がちょうど0になることを避けられます。しかし、残高や受取額が非常に小さくなることはあります。必要な生活費の維持を保証する性質ではありません。

2,512万円と聞くと安心しそうですが、20年間に使えた総額は少なかった。残高だけでは比べられませんね。

せやね。冷蔵庫に食材がたくさん残っていても、毎日の食事が足りていたかは別の話や。資産の残りと、暮らしに届いたお金を一緒に見たいな。
上限と下限を置く方法もあります。例えば「残高の4%、ただし年100万円以上」とすれば支出の下振れを抑えられますが、残高が小さいときも100万円を出すので、純粋な定率法とは違って資産が尽きる可能性があります。下限を付けただけで、生活の安定と資産の維持が両方保証されるわけではありません。
5. 年120万円を出し続けると、資産は何年もつか
ここでは相場の上下をなくし、毎年同じ利回りで運用できたと仮定します。実際の相場を予測する表ではなく、取り崩し額と計算の順番の影響を見る表です。
初期資産3,000万円から毎年初めに固定額を出し、残りを運用します。税金・費用・インフレは含めません。表の年数は予定した年額を満額取り崩せる回数で、翌年から不足します。
| 毎年の固定額 | 毎年の利回り2% | 毎年の利回り3% | 毎年の利回り4% | 毎年の利回り5% |
|---|---|---|---|---|
| 年120万円 (初期資産の4%) | 34年 (35年目に不足) | 44年 (45年目に不足) | 83年 (84年目に不足) | 一定条件で 不足なし |
| 年150万円 (初期資産の5%) | 25年 (26年目に不足) | 29年 (30年目に不足) | 37年 (38年目に不足) | 62年 (63年目に不足) |
| 年180万円 (初期資産の6%) | 19年 (20年目に不足) | 22年 (23年目に不足) | 26年 (27年目に不足) | 32年 (33年目に不足) |
横に広い表はスクロールできます。「一定条件で不足なし」も将来の保証ではなく、毎年5%・年120万円固定という仮定を変えずに続けた場合の計算結果です。
利回りと取り崩し率が同じでも、残高は減る
年120万円は初期資産3,000万円の4%ですが、年初に出した120万円は、その年の運用に参加しません。利回りが4%でも、初年度末は次の金額です。
元の3,000万円より4万8,000円少なくなっています。この一定条件で続けると、83回は満額を出せますが、84年目には120万円を出せません。年150万円・利回り5%も、62回は満額を出せて、63年目に不足します。取り崩し率と運用利回りが同じなら、永久に尽きないという説明は成立しません。
計算方法を確認する
年末残高=(前年末残高−年初取り崩し額)×(1+年利回り)です。前年末残高が予定取り崩し額に足りなければ、その年は満額を出せないと判定します。計算途中で残高をマイナスにはせず、端数は表示時だけ丸めています。
初期資産をB、毎年の固定取り崩し額をW、一定の年利回りをrとすると、年初取り崩しで残高が初年度から減らない条件は(B−W)×(1+r)≧Bです。W/Bが4%なら、rは約4.17%以上になります。これは変動も税金も費用もインフレもない計算上の境界で、将来の運用で達成できることを意味しません。
取り崩し額を増やすと、序盤の暴落にどう影響するか
先ほどの「最初の3年に−20%、残り17年に+8%」で、毎年出す固定額だけを変えると、次の結果です。
| 毎年の固定額 | 月額換算 | 20年間の結果 |
|---|---|---|
| 120万円 | 10万円 | 20年後に約443万円残る |
| 150万円 | 12万5,000円 | 16年目に満額を出せなくなる |
| 180万円 | 15万円 | 12年目に満額を出せなくなる |
年150万円のケースでは、16年目の年初に残る約56万円を使い切り、17年目以降はこの資産から取り崩せません。年180万円では、12年目に残る約125万円を使い切ります。年金や他の収入までなくなるという意味ではありません。
この試算は、取り崩し額の増加にどのような影響があるかを示すものです。ここから歴史的な研究の4%を導いたり、「5%はすべての人に無理」と結論づけたりはできません。
6. 現金と支出の調整には、役割と限界がある
出口戦略には、金額を自動的に計算するルールだけでなく、相場が悪いときの支出と資金の用意も含まれます。最低限の生活費と、延期・縮小できる支出を分けると、何を守りたいかがはっきりします。ただし、年金だけで最低限の生活費が足りるとは限りません。
現金2〜3年分は「回復までの保証」ではない
年金などで足りない支出の2〜3年分を現金で用意すれば、その現金がもつ間は値下がりした投資資産を売らずに生活費を出せます。年金で足りない金額が年96万円なら、2年分は192万円、3年分は288万円です。生活費全額の2〜3年分と混同しないようにします。
一方で、相場が2〜3年で回復する保証はありません。現金は物価上昇で購買力が下がることがあり、その分を運用していた場合の収益を得られないこともあります。同じ総資産額で比較するなら、現金に振り向けた分は投資に回せない点も計算に入れます。
Morningstarの2023年の比較研究でも、現金などを目的別に分ける方法には投資家の動揺を抑える利点がある一方、保有方法や補充ルールによっては運用機会の減少が結果を悪くすることを示しています。どのような現金の持ち方でも有利になる、という研究ではありません。比較研究の原文

現金があれば、すぐ売らなくて済む。でも、その間に回復するとは限らないんですね。

うん。予備の傘があれば雨はしのぎやすいけど、晴れる日までは決められへん。現金の役割と、相場の予測は分けて考えよう。
どの資産から使うかは、配分と補充も含めて考える
「相場が悪い年は現金、良い年は株式」という考え方は選択肢の一つです。ただし、株式と債券が同時に下がる場合もあり、いつを「良い年」と判定するか、現金が減ったら何を売るかも決める必要があります。
定期的な資産配分の確認やリバランスと組み合わせる方法もあります。特定の順番で売れば安値売りを必ず防げるわけではなく、税金、売却費用、保有資産の偏りを含めて考える必要があります。
7. 日本の年金・NISAを踏まえ、不足額から逆算する
取り崩し計画の出発点は、資産残高より先に、生活費と年金などの見込収入を確かめることです。米国にもSocial Securityという公的年金があります。米国の取り崩し研究が投資資産から出すお金を検証していることを、「米国には年金がない」と読み替えてはいけません。米国Social Security Administration
日本の老齢基礎年金は、受給資格を満たした場合、原則65歳から受け取れます。見込額は加入歴や受給開始年齢などによって変わるため、ねんきんネットなどで自分の条件を確かめます。税金や社会保険料の負担もあるため、家計に使える手取り額で考えることが大切です。
また、日本の年金額は賃金や物価等に応じて改定されますが、マクロ経済スライドなどの調整があり、生活費の上昇をいつも同じ割合で補うとは限りません。年金と生活費の差を一度計算して終わりにせず、定期的に見直します。日本年金機構の制度説明
NISAが尽きる場合にも、公的年金は生活の土台になる
「将来は年金をもらえないかもしれないから、保険料を払わずNISAで備える」と考える人もいるかもしれません。しかし、ここまでの試算で見たように、NISAなどで保有する運用資産には、相場の下落や取り崩しの続け方によって、生活している途中で使い切ってしまうシナリオがあります。
一方、老齢の公的年金は、受給要件を満たせば生涯にわたって受け取る仕組みです。自分のNISA残高がゼロになったことを理由に、老齢年金まで打ち切られるわけではありません。資産を取り崩す収入に加え、生きている間に継続して受け取れる収入を確保することは、長生きして資産が不足するリスクへの備えになります。これは「年金だけで生活費がすべて足りる」という意味ではありません。厚生労働省「公的年金制度の意義、役割」

投資が順調にいく計画だけでなく、資産が先に尽きてしまう場合も考えると、年金の役割が見えてきますね。

そうやね。旅行の予算を全部使っても、帰りの切符までなくならないようにするイメージや。年金も金額や制度が変わる可能性はあるけれど、不安だから未納にして、老後の備えを運用資産だけに任せるのは慎重に考えたいね。
そもそも、公的年金はNISAと同じように加入・納付を自由に選ぶ投資商品ではありません。国民年金の第1号被保険者には保険料の納付義務があります。「どうせ受け取れない」と決めつけて未納にするのではなく、納付義務のある保険料を納め、受給につながる記録を積み重ねることが基本です。日本年金機構「国民年金保険料の納付義務・納付期限」
支払いが難しい場合は、未納のまま放置せず、免除・納付猶予などの対象になるか年金事務所等へ相談しましょう。未納は老齢年金の資格や金額に影響し、障害年金・遺族年金を受け取れなくなる場合もあります。免除・猶予は未納とは扱いが異なりますが、将来の年金額への反映も制度ごとに違います。日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
生活費が月28万円、年金の手取りが月20万円なら
この仮の家計では、不足は月8万円、年96万円です。初年度の不足額を資産の4%と置く単純計算では、96万円÷0.04=2,400万円になります。
参考額を出す3ステップ
① 毎月の支出を確認する:28万円
② 年金などの手取り収入を引く:28万円−20万円=8万円
③ 年間の不足額を仮の初期取り崩し率で割る:96万円÷4%=2,400万円
| 月の生活費 | 月20万円の年金で足りない額 | 初期取り崩し率4%と置いた参考額 |
|---|---|---|
| 22万円 | 月2万円 | 600万円 |
| 28万円 | 月8万円 | 2,400万円 |
| 35万円 | 月15万円 | 4,500万円 |
| 40万円 | 月20万円 | 6,000万円 |
年金20万円は平均額や標準世帯の数字ではなく、説明用の仮定です。この表は、将来必要な資産額を確定するものではありません。物価、運用の変動、期間、医療・介護や住宅修繕などの臨時支出も別に検討します。生活費の水準を「つつましい」「ゆとりがある」と一律には分類できません。
例えば、毎月の支出を6万円変えると、この計算式による参考額は1,800万円変わります。支出を月1万円減らすと参考額が300万円下がるのも、初期率4%という同じ仮定の中での計算です。どの家計でも支出削減と資産保有が同じ価値になる、とまでは言えません。

まず必要額を出して、その不足を資産で補う。最初から「老後は3,000万円」と決めなくていいんですね。

そうやね。同じ旅行でも、出発地が違えば必要な切符代は変わる。年金と生活費という、自分の出発地から考えよう。
NISAの非課税は、取り崩しの保証とは別
NISAでは制度対象の運用益が非課税になります。売却代金すべてが利益というわけではなく、課税口座でも売却代金の全額に利益への税金がかかるわけではありません。税引後で使える金額を比較することが大切です。
2024年からのNISAでは、売却した商品の取得金額に相当する非課税保有限度額を、翌年以降に再利用できます。ただし、年間投資枠の上限もあり、同年中に使った年間枠が売却で戻るわけではありません。売却や再購入の判断を、枠の復活だけで決める必要はありません。金融庁「NISAを知る」
非課税でも、投資信託の信託報酬などの費用や、値下がり・為替変動のリスクは残ります。NISAを使うと資産寿命が必ず何年伸びる、と一律には言えません。
8. 早期リタイアでは、年金を受け取る前後を分ける
50歳から90歳までの生活を想定すれば、取り崩す期間は40年です。30年間を想定した研究結果を、そのまま40年に延ばすことはできません。
年金を受け取る前と後では、資産から補う金額も変わります。働く収入などがなければ、受給前は生活費の多くを資産でまかない、受給後に不足額が小さくなる場合があります。退職後の税金・健康保険料、加入が必要な場合の国民年金保険料なども含めて考えます。
初期取り崩し率を3%と置けば、不足額の約33.3倍が参考額になる計算です。ただし、「早期リタイアなら3%」「3.5%なら安全」という万人共通の境界はありません。何年間、どの資産で、どの支出を維持するのかを先に決める必要があります。
9. 出口は率だけでなく、足りなくなったときの対応まで決める
取り崩し方法を選ぶときは、次の順で整理すると、自分が何を優先したいのかが見えてきます。
- 必要な支出と見込収入を確認する。 年金などで足りない金額を、手取りで計算する。
- 期間を分ける。 年金受給前後、近く使うお金、長期に運用するお金を区別する。
- 取り崩し方を選ぶ。 金額の安定性と、下落時に減額する余地を比べる。
- 見直しの条件を決める。 物価が上がった、残高が減った、臨時支出が生じたときに、支出と資産配分をどう再検討するか考える。
4%ルールは計画を考えるための出発点です。定額法にも定率法にも長所と弱点があり、残高が多く残る方法が、暮らしに合う方法とは限りません。
出口戦略とは、最高の取り崩し率を一つ見つけることよりも、毎年使える金額と残る資産を一緒に見て、足りなくなる前に見直せる計画を作ることです。積み立てる段階の仕組みは長期積立と一括投資の違いで、株式市場の長い停滞と物価の影響は「株式の死」を検証した記事で解説しています。
出典・参考資料
- William P. Bengen「Determining Withdrawal Rates Using Historical Data」Journal of Financial Planning 7(4), 171–180(1994年10月)。著者による原論文公開ページ。初年度の取り崩し率、その後の物価調整、米国株式・中期国債による検証を参照。原論文のAppendixには年末取り崩しの記述があり、本稿の年初取り崩し試算とは時点が異なります。
- Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard, Daniel T. Walz「Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable」AAII Journal 20(2)(1998年2月)。掲載誌の原文・著者プロフィールで公開された原論文の転載PDF。1926〜1995年。物価調整を行うTable 3とその注記を参照。株式75%・長期高格付け社債25%、初期率4%、30年の過去の成功率約98%。税金・取引費用を調整しない研究です。
- Morningstar「The State of Retirement Income for 2026」公式研究紹介、Amy C. Arnott, Christine Benz, Jason Kephart「What’s a Safe Retirement Withdrawal Rate for 2026?」(2025年12月3日)。3.9%、30年、成功確率90%、物価調整あり、株式比率30〜50%という公式解説の条件を参照。歴史的研究の成功率と同一視していません。
- Jimmy Cheng, Tao Guo, Michael O’Leary「A Comparative Study of Retirement-Income Bucket Strategies」Morningstar(2023年6月22日)、特にpp.1–8, 14–15。目的別に資産を分ける方法の運用機会・補充ルール・行動面の利点と限界を参照。日本の家計の現金2〜3年分を直接検証した研究ではありません。
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」「『ねんきんネット』による年金見込額試算」「マクロ経済スライド」。受給条件、個別の見込額、物価との関係を参照。
- 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第1 公的年金制度の意義、役割」。終身給付と長生きに伴う資金不足への備えを参照。日本年金機構「日本年金機構の取り組み(国民年金保険料の強制徴収)」(2026年7月29日更新、第1項)、「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」(2026年10月16日更新)。納付義務、未納の影響、免除・猶予と未納の違いを参照。
- U.S. Social Security Administration「Cost-Of-Living Adjustment(COLA)」。米国の公的年金と物価調整の制度を参照。
- 金融庁「NISAを知る」。運用益の非課税、売却した商品の取得金額を基準に翌年以降再利用できる非課税保有限度額、年間投資枠を参照。
- 本文の残高・受取額・資産寿命・年金不足額からの参考額は、当ブログが独自に計算した概算です。架空の年次利回りを使う試算は、初期資産3,000万円、年初取り崩し、残額を1年運用、税・費用・インフレなし。予定額に足りない年は残高までを取り崩し、以後の残高を0としています。研究論文の結果を再現したものではありません。物価2%の例は、その仮定を明示した説明用計算です。資料確認・計算検証日:2026年10月20日。
本記事は資産の取り崩し方法と研究・試算の解説であり、投資に関する個別の助言ではありません。特定の銘柄や商品を勧めるものではありません。過去の値動きや研究結果、記載した仮定による試算は、将来の成果を保証しません。投資には元本割れリスクがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。